【私の流儀#2】内藤みゆきさん(Color Your Japanese World )

日本語教師として活躍されている方にお話を伺う「私の流儀」。

本日は、フリーランスで日本語教師を行いながら「日本語教師のたまごサポーター」としても活躍されている、内藤みゆきさんにお話を伺いました。

プロフィール
大学の副専攻では日本語教師について学び、在学中に日本語教育能力試験に合格。大学院進学後は日本語教育の研究科に従事。

卒業後は日本語学校での非常勤講師を経て、オーストラリアの日本語学校での非常勤講師やニュージーランドでの大学講師などを経験。

帰国後は結婚して宮崎に移住して、専門学校の講師職に就く傍ら、宮崎市移住アンバサダーや宮崎大学の日本語教師養成プログラム講師など、さまざまな角度で地域と日本語教育に携わっている。

現在は、Color Your Japanese World代表として、日本語教師のたまごサポーター(授業デザイン・コースデザイン、個別相談、ワークショップなど実施)として活躍中。

http://jforyou.jp/miyuki-naito/

目次

日本語教師になったきっかけ

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本日はよろしくお願いします!
まずは日本語教師を目指したきっかけを教えてください。

日本語教師を目指したのは、高校生くらいのときに観たTV番組「世界ウルルン滞在記」で衝撃を受けたことがきっかけです。

とても大好きな番組で、いつも観ているうちに自分が知っている日常や常識というのは世界レベルで考えればほんの一部なんだということに気が付きました。

そして、それがおもしろいなと感じるようになりました。

世界についてもっともっと知りたくなり、当時流行っていた日本語のクイズ番組などをみて、日本語の深さと世界の広さを知り、大学に進学するときに日本語教育の履修を選択したことが今につながっています。

現在の生徒さんについて

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今はどんな方を教えていますか?

語学力のレベルとしては、さまざまです。

初級の方もいますし、上級・N1レベルの方もいます

あとは介護の日本語など、職種に特化したビジネス日本語も担当しています。

国籍としては、ネパールべトナムの方が多くて、最近ではバングラデシュの方も増えてきています

この間数えてみたのですが、20ヶ国以上の方々と接点を持たせてもらっていました。

フリーランスを選んだ理由

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ワーキングホリデーや非常勤講師、常勤講師といろいろな働き方を経験されていますが、最終的にフリーランスを選んだ理由を教えてください。

1年更新の非常勤講師や常勤講師など、さまざまな働き方をしてきましたが、事務作業に時間を取られることが多くて、自分の理想の生活ではないと感じていました

タイミング的に子供を生んで育てたいという思いも強くなっていたので、働くペースを落とすようになりました。

その後、妊娠・出産を経験して、より自分のスタイルを模索するようになりました

ちょうどその頃、学校に通っていた学生が「日本語を学びたい」というよりは「日本で稼ぎたい」という目的の人が多くて、戸惑っていました。

海外で日本語を教えていたときは「日本語が大好き」「日本文化が好き」という人たちばかりでしたので、そのときの楽しさとのギャップを感じてしまっていたのです。

そんなモヤモヤした気持ちのときにプライベートレッスンを依頼されて、自ら学ぼうとしている方に日本語を教えるのがすごく楽しくて「自分らしく生きるのはフリーランスの道だ」と思い、切り替えることにしたのです。

自分らしい働き方

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自分らしい働き方を見つけたということですね?

さまざまな場所でさまざまな働き方を経験したことが、今の選択につながっていると強く感じています。

東京の日本語学校で教えていたときは、大学への進学予備校みたいな感じの学校で、日本語を教える力は鍛えられたのですが、常に違和感を感じていました。

オーストラリアで働いた日本語学校は、東京の日本語学校とは全然タイプが違っていました。

プライベートレッスンがほとんどでグループレッスンも少人数で行われていました

ニュージーランドでは、高校生を対象としたオープンキャンパスで1日だけの日本語教室を担当したり、日本料理や浴衣の着付けなど、日本文化のレッスンを担当していました。

さまざまな経験のなかで、自分らしい日本語教師としての働き方が醸成していったのだと思います

まだ目指している働き方には道半ばという思いもあるのですが、自分のペースで、家族との時間や自分の好きなこと・やりたいことも大事にしながら、楽しく仕事をして楽しく稼ぐという、理想的な形をつくりあげていきたいです。

日本語教師の魅力

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日本語教師として働く魅力を教えてください。

日本語教師は、さまざまな国や地域の方と接する機会が多いです。

お互いの食生活や文化、物事に対する考え方や習慣などについて話をすることで、お互いの世界が広がっていくという実感が持てることが、とてもおもしろいと感じています。

例えば、日本では黒いネクタイはお葬式でしか使いませんが、ファッションとして黒いネクタイを入学式でしてくる学生もいました。

日本での習慣について話をすると、とても驚いていました

お互いの国の習慣や考え方について話が広がっていき、お互いの国への理解が深まっていった経験をしたことがあります。

日本語教師としてのこだわり

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日本語教師としてのこだわりはありますか?

私は教えるというより、学習者との対話(会話)を通して気付きを促し、いつのまにかその文型を覚えていったりできるような「教えない授業」みたいなことにこだわっています。

話せなかった学習者が、半年後には私が言った冗談で笑っているのを見ると、とても嬉しいです。

使用している教材

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使用している教材やオリジナルの教材を教えていただけますか?

好きなテキストは『できる日本語』や『いろどり』です

自分で作った教材として好評だったのは「ムスリムの食事の言葉」についてまとめたものです

バングラデシュ人に日本語を教えていたとき、ムスリムの人たちは、日本に来てから食事にとても困っていることを知りました。

彼らには宗教上の理由で、食べられるものと食べられないものがあるのですが、日本の食材ではそれがわからないのです。

例えば「みりんは実は食べられないものだよ」とか「菓子パンやチョコレートなどに入っている乳化剤も豚由来だから気を付けたほうがいいよ」とか、そういった実生活に役立つ資料を作成したときは、すごく好評でした。

日本語教師としての武勇伝

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日本語教師としての武勇伝はありますか?

ニュージーランドの大学に着任したとき、3日目で新入生と一緒に2泊3日のキャンプに行ったのですが、そのときの出来事が今でも印象に残っています

ニュージーランドには、もともとアクティビティが多いです。

バンジージャンプが発祥だったり、風船のような大きなボールみたいなものに入るアクティビティもニュージーランド発だったりするのですが、その中のひとつに「ツリーアドベンチャー」という、木の上に作られたアスレチックがあります。

例えば、2本の木があって、そこを綱渡りみたいに渡っていきます。

30メートルくらいある木を登って行って、綱渡りを30メートルくらいするという、日本では考えられないくらいの規模でした

そのアスレチックスを、私は最後の最後までできなかったんです。

そしたら学生たちが「先生!先生!」みたいな感じで盛り上げてくれて、それでなんとかやりきることができました。

とても怖かったのですが、今後の学生との関係作りのためにはやりきらなきゃという思いがあって、なんとかやりきったことが私の武勇伝です。

学生との思い出

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他に学生との思い出はありますか?

これもニュージーランドの大学のときの話ですが、その大学で日本語を学んでいる人全員で「恋するフォーチュンクッキー」の動画を作ったことです

学生と一緒に練習して、ビデオを撮って、それを集めてひとつに編集していくという企画だったのですが「先生、それ違う」とか言われながら、学生に教えてもらいました

今でも動画がYouTubeに上がっているのですが、それがとても楽しかったです。

学生との思い出の1枚

尊敬する日本語教師

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尊敬している日本語教師の方はいらっしゃいますか?

私が特に尊敬している先生は、お二人います。

お一人目は、私の大学の恩師である堀井惠子先生です

大学院までの間に、日本語教育の一からすべてを教わったという感じです

大学院修了後もずっとお付き合いさせていただいております。

最近ではzoomで行われている堀井先生のゼミ会で、月1回くらいお話をさせていただいています。

先日「世界中の日本語関係者のためのオンライン交流会」という、500名くらいが参加する大きなイベントの運営をされていて、そこで私も発題させていただいたのですが、その際にもいろいろなアドバイスをいただきました。

お二人目は、フリーランスで日本語教師をされている由利智美さんです。

実は、私がフリーランスを目指そうと思ったのは由利さんがきっかけです

由利さんのことは、フリーランスの日本語教師になりたいと思って、ネットで情報を探しているときに知りました

私は当時から宮崎に住んでいたので、東京で開催されているセミナーにはなかなか参加できませんでした

それでSkypeのセッションをお願いして、3〜4年前からサポートを受けています。

今「J FOR YOU」という「日本語教師の地位を上げよう、収入を上げよう」という取り組みをしているコミュニティを主催されていて、私もそのメンバーとして活動しています。

これからの日本語教師について

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これからの日本語教師について、どのようにお考えですか?

日本語を教えるだけでは差別化できないので、日本語教師として生き残れないのではないかという危機感を持っています。

オンラインのプラットフォームを使えば、ボランティアの方や資格を持っていない方でも簡単に日本語教育に携わることができて、それも低価格でサービスを提供することが可能です

そういう領域に入ってしまうと、価格競争でどんどん収入が低くなってしまうと思います。

そして結果的に、日本語教師の地位も上がらないので、価格競争の波に飲み込まれる働き方は止めたほうが良いと感じています。

これからは日本語を教えるだけじゃなくて、それぞれの強みを活かして日本語+α」を外国の方に提供していくべきだと思います

それで私は「日本語教師のたまごサポート」という活動を始めました

日本語教師になろうとしている方や養成講座に通っている方、新米の日本語教師の方に対してサポートをしているのですが、それぞれの方が今までに積んできたキャリアを強みとして活かすことができて、楽しく働いて楽しく稼げる世界を実現していきたいと考えています。  

また、コロナ禍でオンライン授業が浸透したことが、日本語教師の世界を変えるきっかけになると思います

私自身も、オンラインを活用すれば自分が住んでいる地域に限らず、世界中のいろいろな地域の方と繋がって仕事ができるのではないかという希望を強く持つようになりました。

例えば、私が住んでいる宮崎のような地方都市には、日本語学校はひとつしかないですし、大学も3つくらいしかありません。

そのため、働く環境は限られていました。

しかし、オンライン化が進めば、地方にいてもチャンスは広がっていくと思います。

日本語教師のたまごサポートについて

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「日本語教師のたまごサポート」の活動について詳しく教えてください。

 「日本語教師のたまごサポート」というのは、私が個人で行っているワークショップです

Instagramで「日本語教育」というテーマで発信しているのですが、そこで視聴者からの質問に答えたりしながらコミュニケーションを取っています

そこで気づいたことは、やはり日本語教師にとって、授業の準備が一番大変だということでした。

実際に、自分自身も新人時代は毎日新しい準備をするのにすごく時間がかかって苦労していました。

試行錯誤している間にだんだんポイントを掴むことができていったので、その経験を活かして「日本語教師の授業準備の時短術」というテーマのワークショップを行っています。

私が心掛けている時短の方法や例文の作り方などをお伝えしています。

また「養成講座ではオンラインレッスンについて習わないので、教えてほしい」というリクエストをいただいたので「はじめてのオンラインレッスン」というワークショップを開催しています。

その他、ニーズに合わせたワークショップもやっています。

日本語教師としての強み

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日本語教師としての内藤さんの強みは何だと思いますか?

柔軟性と行動力だと思っています

私はすごく不器用で、人並みにできないことが多いのですが、日本語教師の仕事だけは本当にずっと楽しんでやってくることができました。

「どうしてかな?」と考えてみたのですが、場の状況に合わせてわりと柔軟に対応できているということと、行動力があることが理由だと思いました。

例えば、フリーランスで日本語教師をされている由利智美さんが東京で開催しているセミナーに参加できなかったので「オンラインでお願いできませんか?」というお願いをしたことがきっかけでオンラインセッションが始まりました。

また「宮崎に移住してきた外国人の方のお手伝いがしたい」と思って問い合わせをしたことで、宮崎市の移住アンバサダーにもなれました

そのような行動が、結果として私の日本語教師の活動を支えてくれています

思い起こせば海外生活においても、自分が面白そうだなと感じたことには積極的に参加することで、いろいろな人たちとの接点が増え、それがチャンスとして広がっていきました。

そのような経験から、柔軟性と行動力こそが私の強みだと感じています。

座右の銘

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座右の銘を教えていただけますか?

高橋歩さんという作家の方の言葉なのですが「Believe yourトリハダ」を座右の銘にしています

意味は、ひとことで言うと「直感を大切にする」ということになります。

つまり、自分の体が反応した結果である「トリハダ」は嘘をつかないということですね

雇用条件とかで仕事を選ぶのではなく「おもしろそう」「この人と話してみたい」など、そういう直感に素直に従って行動していくと、楽しくて新しい世界が広がった経験があるので、この言葉を大切にしています。

日本語教師の魅力

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最後に内藤さんが考える、日本語教師の魅力を教えてください。

私が日本語教師を目指したきっかけが「世界ウルルン滞在記」だったことは先ほどお話ししました。

「日本語学習」を通じて、それぞれの文化の話をすることで「世界ウルルン滞在記」のようにお互いの世界が広がっていくことが魅力だと思います

自分が常識だと思っていたことが、いろいろな国の人と出会って話すなかで、とても狭くて小さいことなんだと気づく瞬間におもしろさを感じています。

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