養成講座と現場とのギャップ

養成講座で日本語の教授法を学ばれる方も多いかと思いますが、実際に日本語教師として勤務するようになって、習得した知識と現場のギャップを感じることもあるかと思います。そのようなギャップの例と、養成講座出身の日本語教師の声を紹介していきたいと思います。

目次

教科書について

養成講座では『みんなの日本語Ⅰ・Ⅱ』での指導方法を学びますが、実際の授業では、『できる日本語』や『TRY! 日本語能力試験』、『日本語総まとめ』など、『みんなの日本語』以外の教科書を使用する機会ももちろんあります。どんな教科書を使ってどのようなペース・教え方で進めていくのかは、それぞれの学校や教室によって特徴があり、養成講座との最大のギャップと言えるでしょう。

 

応募や面接の際に、その学校や教室で使用している教科書について情報を収集し、養成講座と同じ教科書がやりやすいのか、他の教科書での指導に挑戦するのか、考えてみるのがいいと思います。自身に合った教科書で授業できるよう、職場選びのポイントの一つにしたいですね。

現役日本語教師の声

・メインの教科書は、『できる日本語』と『テーマ別 中級から学ぶ日本語』です。それ以外の文法、語彙、聴解、読解、漢字の教科書は担任の裁量に任されています。養成講座は『みんなの日本語』、特に文法のみに偏りすぎだと思います。

 

・現在の勤め先の学校は、『みんなの日本語』を使用していて、文法を積み上げて4技能を高めていく方針なので、大きなギャップはありません。ただ、養成講座修了後、最初の勤め先は教科書自体がなく会話主体でした。そのとき扱う文法を使って会話ができるようになることがゴールですが、リピート練習はさせないという方針だったので、養成講座での指導方法が全く活かせず、どうしたらよいか全くわかりませんでした。

 

・勤務する学校では、初級で『みんなの日本語Ⅰ・Ⅱ』、中級で『中級から学ぶ日本語』、上級で『上級で学ぶ日本語』を標準教材として使用しています。その他に文法・語彙などの副教材はありますが、養成講座と同一の教材が基本になっているので助かりました。

文法以外の指導について

上記の教師の声で、「4技能」や「副教材」といった言葉が出てきました。養成講座では、『みんなの日本語』等を使用した文法の解説が中心であるため、教壇に立つようになってから、文法以外の指導をどうすればいいのか戸惑う方も多いと思います。実際の授業では、学習者の4技能(読む・聞く・話す・書く)を伸ばすために、シャドーイング、聴解、読解、漢字、JLPT対策などの指導もしなければなりません。

 

また、常勤教師になると、日本語だけでなく進路指導や就職指導の役割も担います。大学や専門学校の試験や面接、就職活動の面接の対策をします。これは養成講座で学べるものではないので、教師になってから自身で調べたり、その学校の記録を参照したりして経験を積むしかありません。

現役日本語教師の声

・養成講座ではシャドーイングの指導をしたことがありませんでしたが、現在の職場では毎時間シャドーイングを行っています。

・自分はいったい何を勉強してきたのだろうと、壁にぶち当たることが多いです。日本語教師になってから、教師も日々勉強が必要だと実感しています。現在は、ビジネスパーソンにレッスンをしており、教材の選択はそれぞれの学習者に合わせていて、『みんなの日本語』を使う機会はありません。学習者のニーズ、Can doの大切さを実感しています。

・養成講座を出ただけでは進学指導の知識が身に付きません。

文型分析について

養成講座では文型分析を行います。文型分析とは、学習者がその文型を理解したらどんなことができるようになるのか(目標)、そのためにどんな練習問題が効果的か、学習者が文型を自分の言葉に落とし込むためにどんな活動が良いか、などを考えることです。

 

このひとつひとつの文型分析ももちろん大切なのですが、実際の授業でよく出る質問は似たような文型との違いに関するものです。例えば、「『~してから~します』と『~(の)あとで~します』の違いはなんですか?」や「『~のみ』と『~だけ』はどう違いますか?」といった質問です。授業準備の段階で、その日に扱う文型だけでなく、形や意味が似たような文型もチェックしておく必要があります

構造シラバスvs場面シラバス

構造シラバスとは、語彙・文法の難易度を基準に易しいものから難しいものへと順に教えていく手法で、文法事項を漏れなく積み上げることができます。『みんなの日本語』をはじめ、日本語教育で使用される教科書は構造シラバスが多いです。

 

しかし、文法中心のためコミュニケ―ションへの実践力は低く、仕事や生活のために日本語を学びたい方のニーズには合わない場合があります。ビジネスでは、名刺交換、会議、電話対応、アポ取りといった項目、生活では、自己紹介、買い物、食事、交通といった項目ごとに、毎回単発の内容で授業を行います。文法の積み上げというよりも、それぞれの場面で使える表現や適切な対応を教えますまだ基本的な名詞や動詞が入っていない状態からスタートする学習者もいるので、これらの項目を教えるために事前にどんな語彙を導入すべきか、未習の文型をどのように練習すればよいか、構造シラバスのときとは異なる視点で授業を組み立てる必要があります。

模擬授業について小見出し

養成講座の模擬授業は、一人の持ち時間が10~15分程度であったり、同じクラスの受講生や留学生の協力者が学生役を引き受けたり、実際の授業の一部しか体験することができません。養成講座では「教師が話し過ぎる授業は好ましくない」、「導入は教師と学生のやり取りから行う」といった重要なポイントを教えてもらいますが、本当の学習者がいない状況では、あまりイメージがつかないかもしれません。

現役日本語教師の声

・今思うと養成講座の模擬授業は、あくまでもシミュレーションだったと思います。実際の授業は、学習者が目の前にいて、関わり合いのなかで自身も学びながら進んでいくものだと実感しています。

 

・実習時のモデルスチューデントは熱心でやりやすかったですが、実際の現場では熱心な学生ばかりではないため苦労が多いです。養成講座では、態度の悪い学生ややる気のない学生への対応の仕方を習うことはできません。

学生の国籍

養成講座では、学生の国籍がバラバラであることを想定しているため、初級クラスであっても、日本語のみの直接法で授業することを前提にしています。しかし、実際は、1つの国籍に特化した学校もありますし、海外の学校の場合はその国の学生になるので、学習者の母語も使用するなど柔軟な対応が必要です。

現役日本語教師の声

・養成講座では多国籍の学生に教えることを前提に教案を作成していましたが、現在の職場は学生の国籍が同じなので、教案を作り直す必要があります。

・養成講座を受けて間もない時は、国内での授を前提に練習していたので、海外で働きたい私は違和感を覚えながら授業をしていました。

海外で働きたい場合とのギャップ

養成講座は国内での授業を前提としているので、上記の意見にもあったように、海外で働きたい方には違和感があることもあるようです。授業の進め方に加えて、教材に関しても、国内と海外では事情が違います例えば、日本でよく使われている五十音表や絵カードですが、ある国では概念としてそもそも存在しない物事や動物が使われていることがあり、海外で使うにはアレンジが必要です。なお、海外の学校や教育機関は、国内に比べて、教科書や教材が不足している傾向にありますので、よく準備して渡航する必要があります。

現役日本語教師の声

・カンボジアでボランティア授業を数回経験しましたが、初級は養成講座で習った直接法に加え、現地語を混ぜながら進めていく方が習得の速さを感じました。(単語の意味を母語にするのではなく、導入などで織り交ぜる)

その他のギャップ

上記の項目の他に、現役の先生方からは以下のような声もありました。

・現在の職場では新人研修のような制度はなく、フィードバックを受ける機会が少ないので、教え方について不安なときは、自分から上司や同僚に意見を求めるようにしています。

・養成講座では紙の教材を使っていましたが、今の時代はICTを使った授業のやり方を教わる機会が重要だと感じています。教師の平均年齢が高く、機械が苦手な方が多い印象です。

・養成講座では対面授業を想定していましたが、現在はコロナの影響によりオンラインで教える機会も増えました。

まとめ

日本語教師の養成講座と現場のギャップについて、現役教師の方の声を交えながら見てきました。これから日本語教師になることを検討されている方、現在資格取得のために勉強されている方の参考になれば幸いです。また、こういったギャップがあるということを踏まえて、就職・転職活動や授業準備をしていただければと思います。

  • URLをコピーしました!
目次
閉じる