【外国籍の小中学生】日本語が母語でない子どもへの日本語教育

2021年5月10日に日本経済新聞から「外国籍の小中学生とは 日本語指導が必要、3.6万人」という記事が出ました。

今回は、日本語が母語でない小中学生を対象とした日本語教育について見ていきます。

目次

日本語教育を必要とる子どもたちの現状

小中学生の場合

出入国在留管理庁によると、2020年6月末時点で在留外国人は約288万人とのことです。

文部科学省によると、公立小中に通う子どもは約9万7千人です。

母語が外国語のため、日本語で十分に日常会話ができなかったり、授業参加に支障が生じたりしている小中学生は、2018年度の調査(調査は隔年実施・2020年度は実施せず)では約3万6千人にのぼります。

このほか両親のどちらかが外国人であるなど、日本国籍で日本語の指導が必要な子も約9千人いるとのことです。

トータルで約4万5千人の小中学生が、日本語教育を必要としているということです。

日本語指導の必要な生徒を都道府県別で見てみると、以下のとおりです。

愛知県:8,600人
神奈川県:3,800人
東京都:2,900人
静岡県:2,800人
大阪府:2,300人

母語別では、ポルトガル語、中国語、フィリピン語、スペイン語が多いようです。

学校で日本語の授業を受けているのは、約半数にとどまります。

日本語の授業を実施していない学校に理由を複数回答で尋ねたところ「担当教員がいないため」が4,167校で最多、次いで「教育課程の編成が困難」が3,160校だったとのことです。

日本語指導が行われていたとしても、指導方法は各自治体に任されているため、地域間で対応格差が発生しています。

参考:
日本経済新聞「外国籍の小中学生とは 日本語指導が必要、3.6万人」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE090SU0Z00C21A5000000/

今後の政策

文科省は、外国から来た子どもに日本語を教えるノウハウを学ぶプログラムの開発を、2021年度に始める方針です。

60単位以上で構成される講座を大学で開き、現役教員に受けてもらう計画です。

小中学校については、日本語指導が必要な児童生徒18人につき教員1人を、2026年度までに配置できるよう教員定数を見直すという動きがあります。

2021年度は、全国で90人の教員を増やす予定で、同年度予算案で費用を要求しています。

高校生の場合

本題からは少し逸れますが、参考比較として、高校生の現状についても見てみましょう。

2017年度に公立高校などに在籍した日本語指導の必要な生徒3,933人のうち、9.6%に当たる378人が中退しており、これは高校生全体の中退率1.3%の7倍です。

高校卒業後に大学などに進学するのは42.2%で、高校生全体の平均(71.1%)を大きく下回っています。

日本語を勉強できる環境が不十分であると、普段の生活や授業はもちろん、その後の進路にも支障をきたしてしまうことが分かります。

小中学校では2014年度から「特別の教育課程」として、別室での日本語指導が認められているのに対し、高校では単位を取得できる正式な授業として認められていません。

外国人生徒らへの日本語指導は放課後などの時間を使って進められており、指導の方法についても学校任せになっているのが現状です。

今後の政策

文部科学省は、2023年度にも日本語指導を正式な単位として認める方針を固めました。

単位を認めるにあたり、教員や指導方法といった要件の検討も進められます。

小中学校と同様に、高校でも日本語指導を「特別の教育課程」として導入できるよう、指導する教員や授業のコマ数、指導方法などの要件を2021年度中に検討し、学校教育法施行規則を改正した上で、2023年度にも単位として認める予定です。

日本語指導の3つのパターン

「小中学生の場合」の項で少し言及しましたが、現在行われている日本語指導には、特別支援学級や取り出し方式などいくつかパターンがあります。

どんな指導方法があるのか、整理していきます。

特別支援学級

2019年の文部科学省への情報公開請求などによると、外国人が多く住む25市町の公立小中学校に通う外国籍の子どもの5.37%が、知的障害がある子らが学ぶ特別支援学級に在籍していたことが分かりました。

特別支援学級
障害のある児童生徒に対し、学習上や生活上の困難を克服するために設置される学級

自閉症・情緒障害、知的障害、肢体不自由、弱視、難聴、言語障害、病弱者及び身体虚弱の7つのクラスに分かれていて、本来は外国にルーツを持つ生徒を対象にしたクラスではありません。

適切な検査が整っていないため、日本語が不自由で知能指数(IQ)検査の結果が低い生徒が、知的障害などと判断された可能性があるというのが専門家の見解です。

クラスの棲み分けができていないと、特別支援が必要な生徒と日本語指導が必要な生徒のそれぞれが、適切な教育を受けられない恐れがあります。

参考:
毎日新聞「外国籍は通常の2倍 特別支援学級在籍率 日本語できず知的障害と判断か」
https://mainichi.jp/articles/20190831/k00/00m/040/156000c

取り出し方式

取り出し指導」や「取り出し授業」とも呼ばれます。

在籍クラスを離れて、別室で個別に日本語指導を受けることです。

クラスの学習内容から離れ、ひとりひとりの日本語能力に合わせて学習を進めます。

各教科の補習や復習、教科だけでなく、日本での学校生活や社会生活に必要な知識の学習、「聞く・話す・読む・書く」の4技能のいずれかに絞った集中的な練習など、様々な指導内容が考えられます。

入り込み方式

入り込み指導」とも呼ばれます。

在籍クラスで授業を受ける中で、日本語指導担当教師や母語支援者がそばに付き添って学習のサポートを行うことです。

日本式の学校生活や集団生活に慣れたり、日本人生徒が外国人生徒に対する理解や配慮を深める機会が生まれたりというメリットが考えられます。

参考:
文部科学省「日本語指導担当教師の役割」
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/04/22/1304738_005.pdf

日本語指導教員に必要な資格

前述の通り、小中学校では「特別の教育課程」として日本語指導が認められていますが、そこで教える教員に必要な資格はどういったものなのか、この項で確認していきます。

小学校であれば小学校教諭の免許状が、中学校であれば中学校教諭の免許状が必要です。

各教科の補充指導を行う場合、中学校においては当該教科の免許状も必要となります。

日本語指導ではありますが、日本語教育の資格は必須ではないというところが意外なのではないでしょうか

教員免許があれば日本語指導教員に応募はできますが、個々の生徒の日本語能力や特性を的確に把握し、それに応じた指導を行わなければならないため、日本語教育に関する知識なしでは困難な場面も出てくることが予想されます。

日本人が対象の教科指導と、外国人が対象の日本語指導では、必要な技術や知識が大きく異なります。

また、生徒の国籍も多様化が進んでいるため、異文化や外国語についての理解や知識も必要だと考えられます。

参考
文部科学省「学校教育法施行規則の一部を改正する省令等の施行について(通知)」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/clarinet/003/1341929.htm

まとめ

今回は、公立小中学校での日本語指導について見てきました。

多数の生徒が日本語指導を必要としているにも関わらず、実施状況や指導方法については、それぞれの学校や自治体でバラつきがあるのが現状です。

日本語の授業を実施していない学校については、その理由が「担当教員がいない」「教育課程の編成が困難」といった人的な原因もありますので、政策による改善と人材の育成を同時に進めていくことが急務です。

教員側も、教科指導や日本語教育・異文化理解など、総合的な知識を身につけていくことが理想です。

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