日本語教師として活躍されている方にお話を伺う「私の流儀」。
本日は、miki WORLDという会社を運営し「おもてなし日本語教師」という肩書で活躍されている、竹本薫さんにお話を伺いました。
プロフィール
高校に通学しながら、420時間の日本語教師養成講座を修了。
大学には進学せず、海外での日本語教師を目指すが実現できず、接客業に従事。
現在は「笑顔」と「日本語」で世界を繋ぐmiki WORLDという会社を運営している。
日本語教師になったきっかけ
本日はよろしくお願いします!
まずは日本語教師を目指したきっかけを教えてください。
海外で何か仕事したいなと漠然と思うようになり、調べたところ日本語教師という職業を見つけたので、興味を持つようになりました。
日本語教師として活動してまだ1年とのことですが、その間は何をしていましたか?
当時、日本語教師養成講座を修了すれば日本語教師になれると思っていたので、大学へは進学しませんでした。
高校を卒業したあと、海外で働く日本語教師になろうと思い、仕事を探し始めたときに、四大を卒業していないと応募資格がないということに初めて気がつきました。
面接すら受けさせてもらえないことがものすごくショックで、日本語教師になることを諦めてしまいました。
それからは接客業を18年やっていました。
日本語教師としての活動は、どのように再開したのですか?
いくら日本語教師養成講座を修了しているとはいえ、かなり長い間日本語教育から離れていたので、まずは知識不足を補うために、講座などを受けて文法を学び直しました。
そして、まずは無料でよいので、経験を積むためにお友達作りから始めました。
ずっとInstagramをやっていたので、日本語に興味がありそうな人にどんどんメッセージを送って「無料で日本語を教えましょうか?」という感じでお声がけをしていきました。
無料なので、比較的楽に生徒さんを獲得することができました。
その後は生徒さんに紹介していただいたり、企業様と業務提携させていただくことができたので、今はそういったお客様に教えています。
現在の生徒さんについて
今はどんな生徒さんを教えていますか?
ほとんどが社会人の方です。
ビジネスマンや技能実習生が多くて、国籍は多岐にわたっています。
中国、インド、イギリス、コロンビア、アメリカ、トルコなどです。
日本語のレベルとしては、9割がN5・N4レベルの初級の方です。
レベルの高低を問わず、私の生徒さんは日本での会話・コミュニケーションが取れるようになりたいということで、会話中心のレッスンになっています。
初級の生徒さんのなかには、海外に住んでいるけど日本語が好きで勉強している人や、将来日本に来て働きたいと考えていて、少しずつ勉強を始めている方もいます。
そういった方は、基本的には文法の勉強をしています。
JLPTを受けたいと思ったときに受けられる状態にしておきたいので、文法を中心に教えています。
合計で個人レッスンが9人と、グループレッスンを2つ担当していて、1日3~4時間ほど働いています。
尊敬する日本語教師
尊敬している日本語教師の方はいらっしゃいますか?
私が今お世話になっている入江ちほみ先生です。
教え方がすごく的確で上手だということもあるのですが、日本語を教えるだけではなく、生徒さんの悩み相談にもとても親身になって対応されているところが、人として尊敬しています。
日本語教師である前に「みんなが幸せになれるようにお手伝いしたい」という方で、私も人としてそうありたいと思っています。
自分らしさを発揮できるとき
自分らしさを発揮できるのは、どんなときですか?
オンラインで1対1の対面で生徒さんと会話をしているときが、一番自分らしさを発揮できていると感じます。
「おもてなし」を取り入れたグループレッスンを担当しているのですが、やはりグループレッスンだと、ひとりひとりが解決しなければならない問題を解決できないことに気がつきました。
グループレッスンは、たくさんの人に教えられるのは良いことなのですが、できる人とできない人の差が目立ってしまい、どうしてもできない人に寄り添ってしまいます。
心が痛くなるというか、助けたくなってしまうのです。
そのため、オンラインで1対1の対面の方法が、もっとも私らしい働き方だと思います。
学習者との思い出の1枚
使用している教材
使用している教材やオリジナルの教材を教えていただけますか?
「笑顔」と「日本語」で世界を繋ぐmiki WORLDという会社を、個人事業主として運営しているのですが、そこでは、私が実際に初級の文法を勉強したときの先生が作られた、初級文法のオンラインテキストを使用し、販売もさせていただいています。
絵がないので絵を付け加えたり、必要な箇所を切り取ったりして使用しています。
そのテキストには問題は載っておらず、簡単な英語によって文法を説明するだけになっています。
それを使うと、1回のレッスンで、速くそして多くの文法を教えることができるので、すごく効率的だと思って使用しています。
早く文法を終わらせることができるので、残った時間で問題を解いたり会話をしたり、有効な時間として使えることが、私の中ではとてもメリットがあると感じています。
会話中心の場合は、基本的に道具は何も使いません。
zoomで行うことがほとんどなので、話しながらチャット機能を使ったり、あとはワードを開いてホワイトボード代わりに文字起こしをして「ここはこうですよ」という感じで説明しています。
会社について
miki WORLDという会社について、少し紹介していただけますか?
「miki」は樹木の「幹」からとりました。
たくさんの生徒さんや日本語教師の方、地域住民の方とのつながりの場所になって、枝が伸ばしていけるといいなとの思いで「miki」という言葉を使っています。
企業ミッションとしては「笑顔と日本語で世界を繋ぐ」というテーマを掲げて活動しています。
接客業の経験が長いということもあるのですが、笑顔にはすごくこだわっています。
自分が誠心誠意、笑顔で「おもてなし」をすると、相手の方も嬉しく思っていただけて、お互いが自然に笑顔になるのです。
日本語教師としての苦労
日本語教師をやっている上での苦労はどんなことがありますか?
自分の日本語に対して自信がなくなっていくと言いますか、自分が教えていることは本当に合っているんだろうかという不安に苛まれるときがあります。
そういうときは、家族や友だちとの会話まで変に意識してしまって、自分らしくなくなってしまいます。
子どもにまで厳しくなってしまうときは、プロフェッショナルとしてはいいかもしれないけど、普通の人間としてはどうなんだろう、と考えてしまいます。
意識していること
日本語を教えるときに意識していることはありますか?
生徒さんが日常会話の場で自然に日本語が使えるようになることです。
ある程度日本語を学んだ方が口をそろえておっしゃるのは「もう文法は分かるけれど、実際に会社とかで話すときに話せずに、結局コミュニケーションがうまくいかない」ということなんです。
そういった悩みを聞いて、具体的なそれぞれの場面での会話を想定し、日本人がどのようなことを考えて、どのような言葉を選び、会話しているのかを教えています。
大学などの授業で学ぶものとは違って、日本人との会話の場面でとても役に立っているという意見を聞くと、とても嬉しくてやりがいを感じます。
座右の銘
座右の銘を教えてください。
座右の銘というわけではないのですが「今の自分にできること」をモットーにしています。
今の自分にできないことをしようと思っても仕方がないので、今の自分だから教えられることと、経験を積んだ自分が教えられることは変わってくると思うので「今の自分にできること」を最大限出し切ることを心掛けています。
これからの日本語教育について
日本語教師の国家資格化の話もありますが、これからの日本語教育についてどのようにお考えですか?
国家資格化の必要性は理解していますが、少し危惧していることもあります。
それは、今後も日本語教師の必要性が増えていくのに、国家資格化になることによって日本語教師になる難易度があがり、数が少なくなって、さらに人材不足が進むのではないかということです。
一方で、国家資格化になれば、もっとプロ意識の高い日本語教師が増えるのではないかという期待もあります。
また、コロナ禍で海外から日本にくる外国籍の方が減ってしまったことで、日本語教師の将来性についてマイナスに考えるのは間違っていると思います。
コロナ禍だからこそできることは、絶対にあります。
諦めそうになっている人に、今までとは違った方法を探すことを提案したいですね。
そのひとつがオンラインの活用です。
日本語教師業界でも今「オンラインにせざるを得ない」ということで、ものすごい勢いで発達しています。
私はコロナ禍とは関係なく、もともとオンライン専門の日本語教師になりたかったので、特に違和感はないのですが、対面に慣れている方は対応するのが難しいと感じてしまうようです。
とにかく諦めないで、できることから少しずつやって、可能性を広げてほしいと思います。
オンラインの良さは、世界中の人に教えられることだと思います。
時差の問題もありますが、それを逆手に取れば、夜中でも生徒さんに教えられるので、欠点を利点に変えて働くこともできるわけです。
オンライン専門を目指した理由
どうしてオンライン専門の日本語教師を目指されたのですか?
一番の理由は子育てのために家で仕事がしたいということでした。
Skypeやzoomなどは一度も使ったことはありませんでしたが、まずは登録するところから初めてみて、分からないところは講座を受けて、という感じで進めていきました。
やり方を先に学ぶより「まずはやってみてわからなかったら勉強する」というタイプなので、行動あるのみでした。
やってみたら何とかなるもんだなと改めて実感した次第です。
日本語教師としてのこだわり
竹本さんにとってのこだわりを教えてください。
今「おもてなし日本語教師」という肩書で活動しているのですが、日本語教師業界にはまだまだ「おもてなし」という発想が不足していると感じています。
教えなければならないことを教師側が勝手に決めて授業を行うのではなく、生徒さんが本当に望んでいるレッスンを提供することにこだわっています。
もちろん、ただ望んでいるのではなく、生徒さんにとって必要なこと、ためになることであるかどうかは、プロの日本語教師として判断しなければなりません。
そのためにはとにかく生徒さんとお話をすることが大切です。
会話を繰り返すなかで、生徒さんの本当に苦手な部分、見直さなければならない部分を探し、その方にとって最善の方法を考えて、レッスンを組み立てていく必要があります。
レッスンが終わったら、今日の感想と改善してほしい点を生徒さんに必ず聞いて、次のレッスンには取り入れるようにしています。
それを繰り返すことで、生徒さんのためのレッスンが実現できるように心がけています。
具体的な例を教えていただけますか?
例えば、会話を中心に勉強したいとおっしゃった生徒さんがいたのですが、話していくうちに、活用や助詞が間違っていることに気が付き、その間違いが円滑なコミュニケーションを妨げていると感じました。
そのため、授業の中に文法を教える時間を多くとるようにしたことがあります。
ただ教えるのではなく、具体的な改善方法を提示して、練習を根気よく行いました。
仕事を通して学んだこと
日本語教師の仕事を通じて、学んだことはありますか?
生徒の皆さんは、授業だけじゃなくて、授業以外の部分でも、自分の忙しい時間を削って日本語の勉強をする努力をしています。
自分自身もそれに刺激されて、怠けちゃいけないと思い、刺激されています。
見えないところでも努力することの大切さを教わりました。
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