日本語教師になるために日本語教育能力検定試験の合格を目指すにあたり、受験者を悩ますのはアクセントなどの聴解です。
今回は「聴解」を中心に、日本語教育能力検定試験の受験者を悩ます「文法」と「論文」への取り組み方について、詳しく考察していきます。
聴解と音感
いくら聴いても聴き分けることができずに、以下のように諦めてしまっている方も多いのではないでしょうか。
・センスがないから仕方がない
・小さいころからでなければ耳を鍛えることはできない
そう考える方の多くは、おそらく「絶対音感」をイメージされているのだと思います。
絶対音感とは、楽器の音に限らず、例えば鍵が床に落ちた音を聞くと、その音がどの音階(シとかレとか)だったのかわかる能力のことを指します。
幼少期に訓練すれば身に付けることができる能力であると言われており、音楽家が代々続いていく要因のひとつです。
この話を聞くと「やっぱり大人になってからでは耳を鍛えることはできない」と思われがちですが、実はそのような考え方は間違いです。
絶対音感の他に「相対音感」というものがあり、こちらは大人になってから鍛えることができます。
相対音感とは、例えば2つの音が聞こえたときに、以下のようなことを判断できる能力です。
・どちらの音が高いか
・基準の音を聞いたあとに別の音を聞いて、それが基準の音と比べて高いのか低いのか
日本語教育能力検定試験のアクセント問題に必要な能力は、絶対音感ではありません。
聴力は、大人になっても、誰でも鍛えることができる能力なのです。
聴解・アクセント問題対策はひたすら「聴く」こと
音楽が得意で音感を持っている方にとって、何も準備しなくても点が取れるのがアクセント問題(聴解)ですが、苦手にしている方が多く、致命傷になりかねないパートでもあります。
聴解を得意分野にすることができれば、他の受験者と大きく差をつけられるようになり、合格に一歩近づきます。
音楽の試験ではありませんので、問題はある程度パターン化しています。
したがって、訓練すればするほど、確実に正解を導き出すことができます。
『日本語教育能力検定試験 完全攻略ガイド』(ヒューマンアカデミー著)の最新版(2021年2月:第五版)には「音声問題についてどのように考えればよいのか」という項目が追加され、試験Ⅱ聴解試験用のCDもついています。
しかし、苦手意識があるのであれば、それだけでは練習量が足りません。
『日本語教育能力検定試験 聴解・音声特訓プログラム』や『NHK日本語発音アクセント新辞典』(iPhone用アプリがあります)などを活用するか、「音あて」などの無料アプリを活用して、毎日5分、徹底的に耳を訓練しましょう。
アクセントは、とにかく最初の2音を聞き分けられるようになれば、かなりの確率で正解を導くことができます。
日本語のアクセントの多くは、高低もしくは低高のいずれかに該当します。
同じ高さは標準語のルールに反しているからです。
一度高くなったら、次はいつ低くなるのか集中して聴く。
一度低くなったら、次はいつ高くなるのか集中して聴く。
これに徹すれば良いのです。
日本語は、高くなり続けたり、低くなり続けたりすることは、決してないからです。
例えば「食べ物があります」という発音ですが、「ベ」で一度高くなり「の」でまたさらに高くなっているとも聞こえますが、それは日本語のルールから外れるので無視してください。
一度高くなったら次はいつ低くなっているのかを聴くだけなので「の」は高くなっていると認識せずに、「が」で低くなっていることを聴き取れるようになれば良いのです。
試験当日のお昼休みは、とにかくアクセント問題を聴いて、ウォーミングアップして耳を慣らしておきましょう。
文法は他人に説明できなければ理解できていない
文法が苦手な理由のほとんどは知識不足です。
日本語が母国語の場合、ある程度の文法問題は今までの経験上、なんとなく正解を導き出すことができます。
その結果、理解しているような気になって知識の習得をおろそかにしてしまうため、試験で間違えても、回答を見て「あぁ、そうだそうだ」とその場で納得する、ということを繰り返してしまうのです。
上記のような理由で文法が苦手になったのだと考えるのであれば、ひたすら問題を解いてみることをおすすめします。
もちろん、ただ解いて回答を見て「あぁ、そうだそうだ」となっては意味がありません。
本当に理解しているかどうかを見極めるには、他人に教えることができるかどうかで確かめることが一番です。
しかし、身近に日本語を学んでいる人はなかなかいないと思いますので、その代わりとして、他人に教える前提でノートに解説してみることをおすすめします。
正解を導き出せたとしても、説明ができなければ、母国語としての経験のみで正解を導き出している可能性が高く、本当に理解していることにはなりません。
後述しますが、これは論文対策としても効果を発揮する方法ですので、ぜひお試しください。
対策本としては『考えて、解いて、学ぶ日本語教育の文法』などがあります。
あえて母国語としての日本語力で問題を解く過程を踏んで、普段何気なく使用している日本語の文法事項について、自らが考える体験を積み重ねていく、という手法をとっているので、上記のような勉強法に最適な本です。
すべての設問に解説が付いているため、自分のまとめた解説と比較することも可能です。
例えば、見極め問題の解答を説明してみましょう。
ここに、用法の違いを見極める問題があります。
下記3つの中から1つだけ用法が違う「ようだ」を選択しなさい。
(1)犬は今日、ペットショップにはいないようだ。
(2)犬と一緒に出かけてしまったようだ。
(3)犬との生活は楽園にいるようだ。
こちらについて解説文を作成してみましょう。
「ようだ」は助動詞の一種で、意味は3つあります。
A. 推定
根拠にもとづいて推測する
(どうやら~らしい)
B. 比喩
何かにたとえる
(まるで~、~と似ている)
C. 例示
具体的な例を挙げる
(例えば~)
問題の(1)と(2)は「A. 推定」の用法であり、(3)は「B. 比喩」の用法ですので、用法が違う「ようだ」は(3)と判断できます。
という説明になりますが、果たしてこの説明で日本語学習者に理解させることはできるでしょうか?
そこで理解しやすくするために、見極め方について説明してみましょう。
(1)と(2)は類似語である「らしい」に言い換えることができますが、(3)は「らしい」に言い換えることができません。
したがって(3)の用法が違うということが判断できます。
さらにわかりやすくするために、言い換えに使った「らしい」についても触れてみます。
言い換えに使った「らしい」ですが、推定を表す際には「ようだ」と同じような使われ方をしますが、「らしい」には「B. 比喩」や「C. 例示」の用法はありません。
「らしい」に言い換えられるということは、必ず推定を表すことになりますので、用法の区別ができるというわけです。
いかがでしょうか?
このように、どうやったら相手が理解しやすいかを考えることで、周辺の知識を整理することができるのです。
記述問題は早期対策が肝心
記述問題が得意な方は、学生時代から小論文や論述問題が得意だったのではないでしょうか?
そのような方は、記述問題に対して特別な対策をする必要はありません。
しかし、苦手意識がある人は、特別な対策を行うべきだと考えます。
記述問題が得意になるためには近道はありません。
とにかく書くことに尽きます。
記述問題が苦手な方は、苦手であるがゆえに文章を書くことを避ける傾向にあります。
それでますます力の差がついてしまうわけです。
日本語教育能力検定試験を受けようとしている方の多くは、暗記を優先し、記述問題対策は最後に実行しようと考えている傾向がありますが、これは誤りです。
記述は慣れる必要があるので、対策を最後に回してしまうと時間が足りなくなります。
一番の対策方法は、勉強を始めた段階で、とにかく自分が学んだ内容を誰かに説明することを前提として文章にまとめてみることです。
学んだことが整理できて、あとで読み返すことで復習もでき、さらに文章を書く訓練になります。
キーワードは「とにかく毎日書いてみる」ことです。
最初は時間がかかりますが、だんだん慣れてくると要領がわかってきます。
記述問題対策と称して、学習の最後に取り組んでいては十分な訓練ができません。
まとめ
今回の記事では、日本語能力検定試験の受験者が壁にぶつかりやすい、聴解と文法、そして論文について考察しました。
得意項目をさらに伸ばすより、苦手項目を克服する方が点数を獲得しやすいです。
苦手科目から逃げるのではなく、積極的に取り組むようにしたいものです。
例として挙げた解決方法は、受験のための勉強法ではなく、日本語教師になったあとも役に立つものばかりです。
自分が日本語教師になったときをイメージしながら覚えることで、長期記憶として定着しやすくなります。
みなさんの苦手分野克服のきっかけになれば幸いです。
参考:
3ヶ月の完全独学で日本語教育能力検定試験に合格したブログ「独学の教材について13(私的おすすめランキング:1位・赤本)」
https://ameblo.jp/nihongokyoikudokugaku/
社会人の勉強〜日本語教育能力検定試験勉強の巻〜「アルクの教材別オススメ度」
https://ameblo.jp/vc-adgc/entry-12545353918.html?frm=theme
日本語教育能力検定試験の解説ブログ
https://www.hamasensei.com/
日本語教師のはま「【最速】日本語教育能力検定試験に独学で合格する方法【過去問に始まり過去問に終わる】」