日本語教師として活躍されている方にお話を伺う「私の流儀」。
本日は、日本語教師兼ローカルガイドとして活躍されている、阪口裕子さんにお話を伺いました。
プロフィール
大学の副専攻で日本語教員養成課程を修了し、卒業後に中国の天津で日本語教師デビュー。
現地の高校で1年間日本語の授業を担当。
帰国後、地元・大阪の日本語学校で常勤教師として約4年間勤務。
その後メインの仕事としては日本語教師の仕事から離れ、空き時間にプライベートレッスンを続けながらインバウンド関係の仕事などを経験したのち、2018年からフリーランス日本語教師として活動を再開。
同時にAirbnbのローカルガイドとしても活躍。
現在は京都へ移住し、引き続き日本語のプライベートレッスンとローカルガイドを行い、フリーランス日本語教師として4年目を迎えている。
日本語教育副専攻 学士課程修了。
日本語教育能力試験合格。
https://linktr.ee/yukojapaneseteacher
日本語教師になったきっかけ
本日はよろしくお願いします!
まずは日本語教師を目指したきっかけを教えてください。
大学2年生になったときに、たまたま日本語教員養成課程のお知らせをもらったことがきっかけです。
ちょうど大学に行っている目的が分からずに、ふらふらしていた時期でした。
そのお知らせで日本語教師という仕事があることを知り、やはり日本人なので英語を教えるより日本語を教えるほうがいいのではないかと思い、最初はちょっとした興味で勉強し始めました。
クラスを取っているうちにどんどん学びへの意欲が湧いてきて、最終的には仕事として本格的にやってみたいと感じるようになりました。
日本語教育は副専攻とのことですが、主専攻のほうに進もうとは思われなかったのでしょうか?
もともと私が取っていたクラスが、文学部の中のアジア地域や国際文化というもので、日本語教育と関わりがありました。
もし日本語教師にならないのであれば、そういった教育や英語に関わる仕事に就きたいとは思っていました。
「日本語教師なんて夢みたいなこと言わずに、ちゃんと仕事を探しなさい」と大学の就職課の方に言われ、実際に就職活動をしました。
内定もいただきましたが、辞退して、卒業してから中国に行き、日本語教師の道に進むことを決意しました。
日本語教師としてのこだわり
日本語教師としてのこだわりはありますか?
現在はプライベートレッスンという形で教えているので、クラスレッスンというよりプライベートレッスン目線になるのですが「教える」というよりも「一緒にクラスを作っていくこと」を大切にしています。
それぞれの生徒さんに合わせてカスタマイズできるのがプライベートレッスンのいいところですが、その方と私とのコラボレーション作品のように、お互いにレッスンを一緒に作っていくことを毎回心掛けています。
また、学習者が間違いや失敗を恐れたり「こんな変なことを聞いてもいいのかな」と心配したりすることなく、安心して話せる理解者のような存在になりたいと思っています。
先生というよりは「なんでも相談できる存在」だと思ってもらえるように、雰囲気作りを心掛けています。
使用している教材
それぞれの生徒さんに合わせたプライベートレッスンを行っているとのことですが、教材はどのようなものを使っていますか?
基本的には、生徒さんのリクエストに沿う形です。
もし生徒さんがテキストを持っていればそれを使いますが、大体の方は『みんなの日本語』を持っています。
特に指定のテキストがない場合、初級クラスでは、オンラインで無料で使える『いろどり』のつまみ食いをしています。
『みんなの日本語』の文法項目をベースにして、自作のGoogleスライドを作成し、そこに『いろどり』から必要な練習やリスニングを付け足すという要領です。
中級以上になってくると、大体の方がテキストを使わずに、NHKのニュースのウェブサイトや日本人が話しているポッドキャストなどを聞きながら、会話練習をしています。
JLPT対策に絞ったレッスンを希望される方には、『新完全マスター』のシリーズや過去問などを使っています。
現在の生徒さんについて
どんな生徒さんに教えていますか?
今レギュラーでレッスンを取られている方は、15人前後です。
基本的には週1回の頻度ですが、最多で週4回くらい取ってくださっている方もいらっしゃいます。
国籍は、アメリカの方が比較的多いです。
私がレッスン可能かつ海外との時差も問題のない時間が、だいたい日本の朝や昼の時間帯なのですが、その時間に合うのがアメリカの夜の時間帯とヨーロッパの朝の時間帯です。
そのため、どちらかというと欧米の方のほうが多い印象です。
比率としては、日本在住の方と海外在住の方は半々くらいです。
1年前コロナの影響で急にオンライン主流に切り替わったときは、海外の方からのリクエストが増えました。
そのときは7:3くらいで海外が多かったのですが、今は逆にそういう方たちがもとの生活に戻られて忙しくなってきたこともあり、逆に国内が増えました。
今は半分ずつくらいになっています。
海外からの申し込みは、友達の紹介が多いです。
少し前まではInstagramやFacebookの投稿に広告を付けるなど、いろいろ試していたのですが、問い合わせが来てもそこから成約に持って行くことができる確率は、かなり低かったです。
まったく知らない人よりは、知り合いの知り合いだったり、既存の生徒さんが紹介してくれたりというほうが、確実に成約に結びつきやすいです。
学習者との思い出
日本語教師としての武勇伝
日本語教師としての武勇伝はありますか?
学習者の名前を覚えるのが得意です。
日本語学校ではひとつのクラスに20~30人くらいの生徒さんがいますが、できるだけ初日にみんなの名前をすらすらと言えるようにしていました。
だんだん慣れてくると、漢字を見て日本語の発音が推測できるようになりました。
また、以前2ヶ月くらいアメリカや台湾などを旅行しながら、日本語を教えていた時期があります。
現地でInstagramに投稿して、それを見て連絡をくれた方と一回だけの単発レッスンを行っていたのですが、その場での投稿で実際に集客に繋がったというのは、武勇伝といえるのではないかと思います。
働くうえでの喜びと苦労
日本語教師として働くうえでの喜びを教えてください。
日本語学校時代のクラスで言うと、ゼロレベルから教えていた生徒さんがどんどん成長して話せるようになって、生徒同士で日本語で冗談を言い合う姿などを間近で見られることです。
担任として、一番嬉しかったです。
今のプライベートレッスンで言うと、生徒さんと深い関係を築けることです。
プラットフォームなどを利用した数回だけのレッスンのような短い期間の関係より、一人の生徒さんと長く付き合いたいと思っています。
友達でも家族でもないですが、一生懸命勉強をしたりいろいろなプライベートの話もしたりして、信頼関係ができて、深い繋がりが生まれることが嬉しいです。
苦労はどんなことがありますか?
個人で活動しているがゆえなのですが、海外在住の方との時差やサマータイムの調整が大変です。
ヨーロッパとアメリカとオーストラリアでは、サマータイムの開始や終了のタイミングがそれぞれ違います。
プラットフォームだと自動的にカレンダーが修正されるのですが、私のように個人対個人の場合は、毎回生徒さんと相談しなければなりません。
生徒さんが時間を勘違いしていて、私がスタンバイしていたけれど、レッスンができなかったことも実際にありました。
その場合、日程の再調整やキャンセル料など多方面で気を遣います。
尊敬する日本語教師
尊敬できる日本語教師はいますか?
私はほぼ未経験のまま日本語学校の常勤教師をさせていただいたのですが、そのときの先輩の常勤の先生です。
規模を拡大していくところだったため、私以外ではその先生が唯一の常勤教師でした。
日本語教師としても人としても、尊敬しています。
周りに気遣いができる方で、生徒さんからもとても信頼が厚い方でした。
私に対しても最初は厳しく指導してくださり「ちゃんとしなければいけないよ」と怒られたこともありました。
私が結果や態度で返せるようになると、心を開いてくださって、次第に仲良くなりました。
優しいながらも、時にはちゃんと言うべきことをバシッと言える方は素敵だなと思います。
また、フリーランスになってからは、日本語教師を軸に、違うお仕事と掛け合わせて活動されている方が素敵だと思っています。
Twitterで繋がっている、そういった日本語教師の皆さんの働き方は、とても参考になっています。
皆さん楽しんでお仕事をされていて、素敵だと思います。
これからの日本語教育について
業界的な展望とご自身の目標を聞かせてください。
日本語学校で勤務していたときのことです。
進学を目的にしている学生が多い一方で、そうではない学生もたくさんいて、目的の異なる学生たちが同じクラスに詰め込まれていることに違和感を覚えていました。
もちろん学校の運営のために仕方がない部分はあると思うのですが、学校のカリキュラムと学生の目的が合っておらず、学生はどんどんやる気をなくしていき、その間に挟まれている辛さから、辞めていく先生もたくさんいらっしゃいました。
そのような不一致をなくせるように、進学のための予備校・塾のようなスタイルの学校だけではなく、学生がもっと自分で選べるような、いろいろな特色のある学校が増えていったらいいなと思います。
今はどちらかというと経済的に良いとは言えない国からの学生を集めることによって、日本語学校自体の経営も良くならず、日本語教師にもそのしわ寄せがくるという悪循環になっているのではないでしょうか。
多様な学校ができて、もう少し高単価でも払ってくれるような学生たちを集められると、学校の売上も上がって、先生たちにもその分バックされるのではないかと思います。
いろいろなところで言われている「日本語教師の待遇が悪い説」を少しずつでも変えていけたらいいと思います。
また、日本語教師の仕事と、自分の強みや好きなことを掛け合わせて、セルフプロデュースやセルフブランディングできるような先生がもっと増えていったらいいなと思っています。
私は今「日本語教師相談室」のような感じで、現役の日本語の先生や日本語教師になりたい方と話をする講座をやっているのですが、自分の強みやカラーに気が付いて、そこを伸ばしていける先生を、ささやかながら応援したいです。
「日本語教師×〇〇」で活躍する仲間を増やしていくことが、個人的な展望にもつながると思っています。
他のことをやろうと思ったきっかけやタイミングがあったのでしょうか?
フリーランスとして日本語教師を本格的に再開したいと思ったときに、日本語学校に戻るよりは個人で活動していきたい気持ちが強く、何か日本語教師と掛け合わせてできることはないかなと考えました。
私自身旅行が好きで、旅先で現地の人と交流するのも好きなので、そういう体験を日本でもできたらと思い、それを日本語と組み合わせて、海外からの旅行者に向けたサバイバル日本語レッスンをやり始めたのが最初です。
自分らしい働き方とは?
どんな働き方が自分らしいと思いますか?
自分ができることと興味があることを掛け合わせるという、いわゆる「複業」の考え方で、日本語教師を軸にして、時代のトレンドや自分がやりたいことを掛け合わせるスタイルが、自分には合うと思っています。
フリーランス日本語教師であることを活かして、自分が好きなところで働きたいというのも軸に置いています。
現在住んでいる京都も「自分が好きなところ」だったのでしょうか?
これまでは海外志向だったのですが、コロナの影響で行けなくなってしまって、去年改めて京都のゲストハウスに1ヶ月くらい泊まってみたことがありました。
国内で身近なところでも、こんなにハマるところがあるのだと、意外な発見がありました。
実際に住んでみたいと思うようになって、物件を探し、京都に引っ越しました。
京都へ観光として訪れるのはもちろん素敵ですが、住んでみると、鴨川をはじめとした自然と、文化遺産、そこで生活されている住民の調和がとれた街だと感じました。
京都は一見静かなイメージですが、実は細い路地裏にいろいろな居酒屋やクラフトビールのお店があったり、看板が出ていないけれど夜にカフェをやっているお店があったり、知れば知るほど奥が深いです。
そういった隠れた魅力も、京都のいいところです。
状況が落ち着いて、また海外のお客さんが戻ってきたときに、ローカルガイドとして、ガイドブックに載っていないところに連れて行ってあげたいです。
京都では自分の仕事の可能性も広がりますし、個人的にも開拓を楽しめるので、一石二鳥だと思っています。
印象的な思い出
生徒さんとの印象的な思い出はありますか?
プライベートレッスンの生徒さんとの思い出です。
その方は日本人の女性と出会って恋をして、デートに誘うためのメールの書き方、相手からの返事の解釈など、レッスンをしながらも、よくプライベートの恋愛相談に乗っていました。
その始まりから付き合い出して1年後くらいに「プロポーズの言葉を考えたからチェックしてほしい」というお願いもされました。
無事にプロポーズに成功されて、来年くらいに式を挙げるようで、微笑ましい気持ちになります。
その生徒さんの一連の人生のストーリーに、私が関わらせてもらっているというのは、おもしろい体験だと思います。
その方が関西に来たときには、実際に会って、対面でレッスンをしたこともありました。
オンラインレッスンの生徒さんと、たまに対面で勉強するというのもおもしろいですよね。
仕事を通じて学んだこと
日本語教師の仕事を通じて学んだことはありますか?
忍耐力と聞く力です。
クラスでの授業では、教師側がある程度コントロールしてテンポよく進めていくことが大事ですが、プライベートレッスンに関しては、生徒さんのニーズやペースに合わせて見守る忍耐力が必要です。
教師が次の内容に行きたくても、学習者がまだ考えていたら一緒に待ったり、あまり元気がなさそうなときは話を膨らませずに淡々と進めたり、相手のペースに合わせて進めるようにしています。
これは日本語のレッスンだけではなくて、プライベートで他の人と話すときにも応用できます。
聞く姿勢、いわゆる「傾聴力」をもって、相手の様子を見ながらコンディションを考えつつ、相手が答えやすい質問をする力が養われていると思います。
日本語教師の魅力
日本語教師という仕事の魅力を教えてください。
いろいろなバックグラウンドの人がいて、年齢も国籍も文化も違って、そのさまざまな価値観に触れる体験を、日本をはじめ、どこにいてもできることです。
仕事を通して、国際交流や人生勉強ができることは、自分の人間性やキャパシティを広げてくれていると感じます。
また、これはツアーのローカルガイドにも言えることですが、日本が好きな方々からの日本への愛を感じられることも魅力のひとつです。
皆さん日本語を一生懸命勉強してくれて、日本のいいところを伝えてくれます。
それを直接聞くことができるのは、日本人として嬉しいです。
座右の銘
座右の銘を教えてください!
座右の銘は「なんとかなる」です。
これは日本語教師に限らず、人生の座右の銘で、旅から学んだことでもあります。
海外を旅しているときには、いろいろなトラブルや自分の常識では考えられないことが多々起こりますが、こだわっていても仕方がないので「それもしょうがない。なんとかなる」という気持ちで流せることが、だんだん増えてきます。
そうすると、自分の適応能力や臨機応変に行動する力も上がっていって、レッスンにも良い影響を与えてくれています。
この言葉には、メンタル面で助けてもらっています。
日本語教師としての強み
最後に、日本語教師としてのご自身の強みはなんでしょうか?
関西出身なのは、すごく強みだと思っています。
特に大阪の人にとって、日本語教師は本当に天職です。
人を笑わせるスキルやどうやっておもしろくできるかを考えるクリエイティビティがあります。
あとは、関西弁を教えることもできます。
また、英語と中国語も一応コミュニケーションが取れるレベルなので、プライベートレッスンや他の仕事の場面で、英語と中国語でアシストすることができます。
中国語に関しては、日本人向けに講座も行っています。
もともと海外観光客向けにサバイバル日本語講座をやっていたので、その反対のアイデアで、コロナになってから自分にできることは何かと考えて、絞り出した案のひとつです。
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