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教師インタビュー

byマガジン編集部 マガジン編集部

井上竜一さん(日本語教室主催)

日本語教師としての「私の流儀」

広島でボランティアの日本語教室を主催し、個人でもオンライン授業に取り組まれている「井上竜一」さんにお話を伺いました。

井上竜一氏のプロフィール】

1999年に不動産会社を設立し、経営していたが、言語交換学習を通じて日本語教育に興味を持つようになり、大学で日本語教育を専攻することを決意。2017年に日本語教育学の学位を取得。

2019年3月から7月まで、ホーチミンの大学で日本語教師として勤務。2020年から上海の大学で働くため、上海に渡航して準備していたが、年末に一時帰国していた間にコロナが蔓延したため中止。

現在は地元の広島で「日本語学習支援センター」というボランティア団体を立ち上げ、10名の日本語教師とともに、広島在住の日本語学習者に学習支援を行っている。それと同時に、約1年半、個人的に無償のオンライン授業もほぼ毎日行っている。

 

日本語教育専攻 学士課程修了

Q.日本語教師を目指したきっかけを教えていただけますか。

約18年前に旅行好きが高じて英語と中国語を習いました。言語交換サイトを通じて、中国の不特定多数の方と相互学習をしておりました。その中で、日本語を教えてほしいとの要望が多々あり、その都度、安請け合いをして、教えることの難しさを知りました。それがきっかけで、次第に日本語教育に興味を持つようになると同時に、いつか海外の教壇に立って教えてみたいという夢が膨らんできました。元々50歳になったら仕事を辞めるという若い時からの人生設計があり、起業した会社を計画通りたたみ、日本語教師になりました。

 

Q.日本語教師になるために、養成講座や日本語教育能力検定試験など、いくつかルートがありますが、大学を選ばれた理由はありますか。

教えてもらう側のことを考えると、教える側がより専門的な知識を深めたほうがいいと思い、大学を選択しました。

 

Q.今はどのような生徒さんを教えていらっしゃいますか。

まず、個人的に無償のオンライン授業を行っています。1コマ90分の授業を週4日(月火木金)開講し、長期的に継続します。学習者は全員ベトナム人です。N3に合格したての方からN2をすでに持っている方まで、N2を目指す学習者とN1を目指す学習者が同じクラスで一緒に学習するN1・N2複合クラスです。ベトナム在住の学生や社会人、ベトナム人日本語教師、日本在住の留学生、研究生や実習生など、様々な環境と学習目的の方が参加しています。

 

このクラスは3ヶ月前に1人の生徒と始めました。最近ではFacebookや口コミで少しずつ増え、1授業あたり35人前後の学習者が参加するようになりました。参加と退出は自由で、拘束もありません。

 

これは私の研究課題として行っております。通常の日本語教育機関のように、目的やレベルの同じ学習者が1つのクラスに集って授業を受けるのであれば容易ですが、あえてN1学習者とN2学習者を同じクラスにし、また、学習目的や環境、熟達度の異なる学習者を集めて、全員が満足できるオンラインクラスの確立をめざしています。

 

そして、「日本語学習支援センター」のボランティア活動として、広島市の施設を利用し対面授業を行っています。約10名の教師がシフト制で教えます。クラスはN5~N1の5クラスです。

 

学習者との思い出

 

Q.オンライン授業と対面授業では、特にどのような点が異なると感じていらっしゃいますか。

特に学生のモチベーションです。対面授業の醍醐味として、クラスのみんなと会える楽しみがありますし、友達がいることで勉強の励みにもなりますが、少人数のオンライン授業では、各自単独になることからモチベーション管理の難しさがあります。また、コミュニケーションの取りにくさから、学習者の理解度が把握しにくいことも挙げられます。

 

Q.日本語教師としてのこだわりを教えてください。

私の一方的な「こだわり」でなく、学習者の目的により「何に重きをおくべきか」を常に柔軟性を持って考えるようにしております。

 

Q.どんな教材を使っていらっしゃいますか。

ホーチミンの大学では、主に会話授業を担当しておりました。大学側は『みんなの日本語』を使っておりましたが、基本的に私の授業はアクティブ・ラーニングなので、教科書、机、鉛筆は必要ありません。学生同士が相互に練習し、探求と発見を通じて教え合いながら、日本語を学びます。また、学生はベトナム人の日本語教師から母語で文法を習いますが、私はその1つ先の未習の文型を理屈なしで定着できるように進めていました。

 

現在開催しているN2・N1の合同オンライン授業では、その都度使用するトピックを自作しています。様々な環境やレベル、学習目的の方が参加している中で、試験対策の教材を使ったり、自己学習ができる学習者に対して市販のテキストを使ったりした場合、途中で退出する方が現れたり、次の授業では参加者が半減することが目に見えているからです。

Q.オンライン授業ではトピックを自作されているとのことですが、特に好評だったトピックはありますか。

 

日本人の大学生へのインタビューや、恋愛もののストーリーなど、同年代に関する話題です。N1やN2の読解のテキストでは、馴染みのない伝統や文化などがテーマになっていることが多いですが、私の授業では、楽しい話題や生徒の興味のある話題、タイムリーな話題や生活に関する話題を取り扱うようにしています。ネットやYouTubeなどから授業に使える場面を探し、スクリプトを作成したり、文型や語彙を拾い出したりして、授業準備をしています。

 

Q.日本語教師としての武勇伝はありますか。

抽象的に言うなら、常に結果が出せるように試行錯誤をし、生徒からも慕ってもらっています。特に、大学の会話授業では、授業時間中に絶え間なく学生全員が相互に話し続ける活動を行い、学生から定評があります。

 

Q.日本語を話すことに抵抗がある学生が、積極的に話せるようになるためのコツはありますか。

教師のコミュニケーション能力なくして、学習者の発話行為を促すことは不可と考えております。誉めて否定しないことも大事で、生徒に熱意と愛情を持って接すれば、どんな生徒であろうが扉を開いてくれます。私の授業では、「ミックス」と言って、パーティーのように賑やかな雰囲気で授業を行ない、いち早く緊張を取り除きます。

 

Q.どんな働き方が自分らしいと思いますか。

日本語教師になるまでは、「働く」が私の代名詞で、経営者として稼ぐことしか頭になかったのですが、日本語教師になってからは「働く」という感覚はなく、生徒とは対等の関係で、むしろ私のほうが生徒から学ばせてもらっているという感覚です。日本語教師は「教師」と付きますが、そう名乗れるほど研究や模擬授業の経験値が追いついていない部分もあります。常に学生から学ばせてもらうという考えを持って働くようにしています。

 

 

Q.学生さんとの思い出で何か印象深いものはありますか。

ホーチミンに行ったときの別れ際の出来事など、たくさんあって語り切れないほどです。

 

Q.尊敬する日本語教師はどんな方ですか。

九州産業大学の酒井順一郎教授と、「世界が尊敬する100人の日本人」の1人である笈川幸司先生です。

 

酒井教授とは、私がホーチミンの大学に赴任する前、酒井教授がホーチミンに日本語教育の視察に来られていた際に知り合いました。日本語教育について伝授してもらう中で、「アクティブ・ラーニングで授業を行えば、N1に1年で合格できる」と言われ、アクティブ・ラーニングにすっかり魅了されました。酒井教授には懇意にしていただき、ホーチミンに視察に来られる度にいろいろ教えていただきました。ある日、自信をもって酒井教授に私の授業に参加していただきましたが、「笈川先生の授業は教室に入っただけでオーラが漂っている」と言われました。

 

それからすぐに、ネットで笈川先生を検索してコンタクトを取り、今でもアドバイスをいただいいております。インターネット上には笈川先生の動画などもたくさんありますし、笈川先生のFacebookの投稿を見るだけでも様々なヒントが隠されていると思います。

 

Q.日本語教師として働くうえでの喜びを感じるのはどのような時ですか。

 

現在の喜びとしては、私の無料のオンライン授業に参加者が増えてきていることです。1つのクラスにN3レベルからN1レベルの方がいるため、学習難易度が幅広く、授業デザインも試行錯誤中ではありますが、飽きずに夜の大切なひとときを割いて参加してもらえることは喜びでしかありません。

 

Q.逆に、苦労はどんなものがありますか。

やはり前述の異なる環境の学習者全員に満足してもらうことです。オンラインの教室でも、対面の教室と同等の効果を得られるように模索しています。教室活動の利点・欠点とオンラインでの利点・欠点を相互に補いながら、オンライン授業に取り組んでいます。オンラインの利点は、例えば、テキストをテンポよく提示できる、本来通学に使う時間を勉強に使える、多地点の学習者と同時に学習できる、授業の様子をデータで残せるといった点などがあります。一方で、欠点として、学習者と教師の表情がお互いに伝わりにくいこと、モチベーションの維持の難しさや学習者同士のコミュニケーションの取りにくさなどがあります。

 

Q.日本語教師という仕事を通じて学んだことを教えてください。

前述のように、特にこの1年半はオンライン授業について考察してきました。オンライン授業を始めた時は、オンライン授業に関して素人同然でしたが、最近では学習者の無言の声を聞き取れるようになったと感じています。Zoomの画面に数人しか表示していない状況で、「みんなわかった?」と聞いて、数人の返事しか確認できなくても、画面無くして全員の頷く表情が感じられるなど、その都度、進行に合わせて学習者全員の把握状況が測れるようになりました。

 

Q.日本語教師という仕事の魅力を教えてください。

やはり学生の笑顔です。今は教壇に立てませんが、オンラインに慣れてくると距離感も感じなくなり、今では毎日40人近い学生とオンライン上で顔を合わせ、実際に会っている感覚になります。毎日、いろいろな探求や意見が飛び交い、みなさんと会うのが楽しみでなりません。

 

Q.ご自身の日本語教師としての強みはどんなところでしょうか。

私は若い時から、不動産会社を経営しておりましたので、ビジネスには長けています。学生の指導において、日本語だけでなく、特にビジネス日本語、就職活動や面接練習などは、採用側視点でのアドバイスができます。また、コミュニケーション能力も人一倍自信があり、近年取り上げられている「日本語コミュニケーション能力」においても、自らが手本となり示すことができます。

 

Q.これからの日本語教育について、業界の展望と個人的な目標を教えてください。

これからの日本語教育において遠隔授業は切り離せないものになると考えております。そのため、遠隔授業の質の向上が必要だと思われます。我々日本語教師は、自らが学生時代にオンライン授業を受けた経験があるわけでなく、日本語教師になるための養成講座などにおいてもオンライン授業の具体的な指導はなかったと思います。学習者も同様に、オンライン授業の経験がなく、戸惑い、不安、聞き取りにくさを感じています。また、画面を通して複数人の前で発話するとなれば、さらに萎縮もします。

 

つまり、教師と生徒の双方が初めてということになります。そのような場において、オンライン授業に対する不満は自分の授業の結果がもたらしたものと考えるようにしています。学習者を能動的に導くのも教師で、学習者への不満を満足に変えるのも教師です。このようなことから、円滑に行えるオンライン授業の構築は急務であると考え、今後も試行錯誤をしていきたいと思います。

 

Q.最後に、座右の銘を教えていただけますか。

「猫の子でも1人で生きていく」です。「子猫が親とはぐれても1人で生き残れるのだから、ましてや人間がたとえどんなに苦しい目に遭おうが生きていけないわけがない」、つまり苦境に立たされることをビビるなという意味で、よく父が私を励ます言葉として使っていました。学習者に「心配しなくて大丈夫」と伝えたいときに、よくこの言葉を思い出します。

 

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マガジン編集部

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この記事を監修した人

「言葉を教え、文化を広げ、異文化に橋を架けよう」というサービス理念のもと、国内・海外に日本語教育を展開している会社です。日本語を学び、日本語を使い、日本語でつながり、夢を実現するまでの教育を行っています。

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