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教師インタビュー

byマガジン編集部 マガジン編集部

杉本充江さん(フリーランス日本語教師)

日本語教師としての「私の流儀」

市役所の日本語教室で生活者向けの日本語授業を担当され、日本語教師養成講座の講師としても活躍されている「杉本充江」さんにお話を伺いました。

杉本充江女史のプロフィール】

海外へのサマーセミナーや短期スクールへ参加していた経験から、知人に留学生の世話係を依頼されたことをきっかけに、日本語指導の難しさに気付く。近隣の大学で開講していた日本語教育課程の講義を聴講し、日本語教師として働くことを決意。

日本語学校の分校での生活者向けの授業から日本語教師としてのキャリアをスタート。

その後、フリーに転身し、日本語学校だけでなく市役所や企業の日本語授業を担当し、技能実習生や高度人材などを指導。また、公立高校に通うフィリピン人の学生と一緒に授業に参加し、隣で日本語のサポートを行った経験も。

外国籍の学生支援で教育委員会と交渉する中で、学歴の大切さを感じ、社会人枠で大学院に進学。

現在は、市役所の生活者向けの日本語教室で指導し、やさしい日本語を発信するラジオ放送のパーソナリティとしても活躍中。また、ヒューマンアカデミーで15年、2021年4月からはユーキャンでも、日本語教師養成講座の講師を務めている。

 

日本語教育能力検定試験合格

Q.公立の高校で教えられたというのは珍しい経歴だと思いますが、詳しく聞かせていただけますか。

他の先生と大きく違うキャリアだと思います。どこの自治体でも外国籍の子どもが高校に行けるように、公立校の中で受入校というものが指定されています。日本語が流暢ではなくても、教師とインタビューをしてある程度通じれば、学びの機会を与えるという制度です。受入校に知り合いの先生がいた縁で、3年間フィリピン人の学生をサポートしました。私もクラスに入って週16時間受けました。私も先生の話を聞きながら、漢字の指導や難しい日本語の解説をしました。体育や音楽などサポートが不要な授業の合間に、自分でも数学のプリントや物理の宿題をやって、各教科の予習をするのは大変でした。

幸いにも、高校2年生のとき、理数科クラスにいたので苦手意識はありませんでした。時々学生が私の間違いを指摘してくれたのですが、成長を感じて嬉しかったです。高校で過ごした3年間はとても楽しい思い出です。

 

Q.今はどのような方を教えていらっしゃるのでしょうか。

市役所の日本語教室を週に3日とプライベートレッスンを行っています。市役所では、今後ボランティア養成講座も開催される予定で、その準備もしています。

 

市役所の教室には、初級、初級の中盤、読み書き(ゼロからN2まで様々なレベル)の3クラスが開設されています。初級は、ゼロレベルから初めて、1年でみん日の12課まできました。欠席や学習ペースの遅さがあったり、好評だったゲームを何回もやったりしているので、進度がゆっくりです。初級の中盤は、会話練習が盛り上がる傾向があり、2年かけて22課まできました。1回のレッスンは90分です。学習者は全員社会人で、国籍は、ブラジル、アメリカ、南アフリカ、フィリピン、ベトナム、台湾、中国、香港、ネパールなど様々です。

 

学習者との思い出

 

 

Q.どんな教材を使っていらっしゃいますか。

教科書は、市役所指定ということもあり、初級では『みんなの日本語』を使用しています。外国語の訳読本がたくさん出ているので、改めて語彙表を配布する必要がないですし、授業を休んだ人も自習することができます。上級は『日本への招待』を使っています。プライベートレッスンの場合は、学習者のリクエストに合わせています。

 

最近『日本語教師のための活動アイディアブック』を使いこなせるようになりたいと思い、勉強中です。1つの絵シートでレベル別に練習することができるテキストです。例えば、「旅行に行こう」というテーマで旅程の説明をする絵シートの場合、レベル1は「~時に~します」、レベル2は「~つもりです」、レベル3は「~なら、~がいいです」と、レベル別に練習に使用する文型のめやすが書いてあります。『みんなの日本語』とのタイアップ表もあるので、1~50課の文型を網羅することができます。テキスト付属のはがきを送ると、印刷された絵シートやワークブック、音声スクリプトが送られてくるので、手間が省けてすごくいいです。

 

このテキストの活用方法を養成講座の日本語教師のたまごたちにも教えたいと思っています。いい教科書や使いやすい教材をベースに、オリジナルの授業を作っていくのがいちばんいいのではないでしょうか。

 

Q.現在、ラジオのお仕事もされていらっしゃいますね。詳しく聞かせていただけますでしょうか。

災害対策などに使われるコミュニティFMでパーソナリティをしています。市役所の国際課と安全対策課がスポンサーで、やさしい日本語の作り方の説明、多言語での災害対策の発信、日本語学習者へのインタビューといった内容を、月替わりで企画・発信しています。毎週土曜日の18:30~19:00に放送されています。

 

Q.日本語教師としてのこだわりを教えてください。

学習者の「日本語の勉強が楽しい」という言葉の意味を考えることです。ゲームをした楽しさもあれば、気付きの楽しさもありますし、個人的な満足感、ディスカッションで勝った達成感、様々な国籍の人と一緒に学習している繋がりなどもあると思います。どの楽しさが優れているというわけではなく、それぞれの楽しさを尊重しています。

 

また、型にはまらずに自分がいちばんいいと思ったものを貫くことです。自分が選んだやり方であれば、「今日のレッスンはダメだったな」「今日の絵シートは意味が通じていなかった」といったように素直に反省し、次の授業へ向けて気持ちを切り替えることができます。

 

Q.尊敬する日本語教師はどんな方ですか。

アルクの集中講座で講義を受けた春原憲一郎先生です。型にはまらないユニークな教え方が印象的でした。春原先生の講演は他の先生にも勧めています。

 

また、大学院のときに講義を受けた金田一秀穂先生の日本語に対する考え方も尊敬しています。「日本語教師である前に日本語に興味を持ちなさい」という考え方がすごく勉強になります。私自身も日本語が好きになりたいと思っています。「敬語は本当に敬う言葉なのか」というテーマの講演会があったのですが、皇太后・美智子様を例にお話をされていました。美智子様より上は天皇陛下しかいらっしゃいませんが、国民にメッセージを送るときに敬語で話されます。そこから、「敬語は相手に対する愛なのではないか。目上の人に使うという考えは見直したほうがいい」という結論を導かれていて、気付きが多い内容でした。

 

Q.日本語教師として働くうえでの苦労はどのようなものがありますか。

自分と学習者の年齢が離れていくことです。自分自身が年齢を重ねていくのに対し、学習者は主に20代後半~30代なので、今の学習者に必要なものが分かりにくくなってきています。教師という立場に加え、年齢を重ねることで、学習者が私に対して「すごい先生だ」というふうに線を引いているように感じます。

 

Q.逆に、喜びはどんなものがありますか。

養成講座を修了した日本語教師のたまごたちが一人前になっていく姿を見ることが楽しいです。教え子たちが活躍する姿を見て嫉妬する自分が嬉しいです。教え子の成長を感じ、自分も次のステップへ行かなければならないと刺激を受けます。

 

また、学習者が国に帰ってしまうと付き合いがなくなってしまうことが多いですが、JLPTの合格や就職などの折に連絡してくれると嬉しいです。目の前にいて教えているときよりも、その先学習者が自身の思った通りの道に進んでいることを聞いたときが嬉しいです。今度、高校で教えていたフィリピンの方に卒業以来初めて会うのですが、それがすごく楽しみです。

Q.これからの日本語教育についてどのようにお考えですか。

今問題になっているのは公認日本語教師ですよね。日本語教師がこの先社会の中でどこへ行くのかという点に関してはいろいろと課題があってよく分からない状態ですが、「自分はこうだ」と強い気持ちを持つことで進んでいけるのではないかと思います。どこかの組織に所属すると、そこのやり方に左右されて迷ってしまうかもしれませんが、「自分はこうしたい」という信念を持ち、その信念を認めてくれる学習者を大切にすべきだと思います。「学習者に認められる教師とは」という原点に立ち返ったほうが、迷いが少ないのではないかと思います。例えば、高度人材に教えて企業からの評価が得られれば、また別の企業からもオファーが来ますし、生活者に教えてニーズに応えることができれば、コミュニティで口コミが広まります。そういったフレキシブルな働き方ができればいいと思います。

 

 

Q.どんな働き方が自分らしいと思いますか。

教えている現場での時間をON、現場以外での時間をOFFとするなら、私にはOFFはないと思います。絵シートや授業の構成について妥協したくないとエンドレスで悩むので、準備時間がすごく長いです。ONとOFFの差があまりないので、「為すがまま」といった働き方です。ベストは難しくても、限りなくベストに近いベターな状態で授業が行えるよう、無理なく時間をコントロールするようにしています。

 

Q.日本語教師という仕事を通じて学んだことを教えてください。

日本語教師として外国人と上手くやるのは当たり前で、外国人を救うためには、日本人の組織(自治体や企業)とこそ上手くやらなければならないということです。これまで外国籍の子どもと学校の問題や日本人と外国人の夫婦間の問題等により、帰国や離婚という結果になってしまうケースを見てきました。日本人と良好な関係が築けないと、救えるものも救えないと感じています

 

Q.日本語教師という仕事の魅力はどのようなところでしょうか。

日本語の不思議さに触れられることだと思います。日本語が好きでなければ日本語は教えられないと思います。初級は文法に従って教えることができますが、上級にいくにつれて、日本語の奥深さや社会言語的な説明が必要になります。相手によって言い方を変えたり、流行りの言葉があったりと、日本語はとてもフレキシブルな言語で、そこが日本語の楽しさです。「ら抜き言葉」や、「全然おいしい」のような肯定の意味での「全然の使い方」など、日本語の変化に敏感になれるのが楽しいです。

 

Q.座右の銘を教えていただけますか。

根拠のない自信を持って自分の壁に挑め」という茂木健一郎先生の言葉です。この言葉に救われてここまできました。JLPTの受験に迷っている学習者や日本語教師のたまごにも、この言葉を掛けています。

 

Q.6月に出版された『日本語教師の『ジョブ型』メソッド』はどのような思いで執筆されたのでしょうか。

歯医者で偶然読んでいた『もしドラ』の中のドラッガーの言葉が、普段自分が日本語教師として考えていることと同じだと気付き、それを文字にまとめたいと思ったのがきっかけです。コロナの自粛期間中にいっきに執筆して、複数の出版社に送りました。日本語のテキストではないので、日本語教育系の出版社から出すことはできなかったのですが、ビジネスの一般書として出版されたほうが、多くの人の目に留まり社会からのお墨付きももらえるのではないかとポジティブな考えに至りました。

 

 

Q.どのような方に手に取っていただきたいですか。

自分は教師に向いていないと思っていたり、授業に不安を抱えたりして、教師という職業がつらいと感じている方です。教え方や文法はあとから付いてくるもので、その前に大事なことがあると気付いてもらえたらと思います。新しい日本語教師像を作っていってほしいです。日本語教師には、教育業界ではなくビジネス業界の中で個を発揮していけるような存在になってほしいからです。

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マガジン編集部

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この記事を監修した人

「言葉を教え、文化を広げ、異文化に橋を架けよう」というサービス理念のもと、国内・海外に日本語教育を展開している会社です。日本語を学び、日本語を使い、日本語でつながり、夢を実現するまでの教育を行っています。

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