日本語教師の待遇・年収

日本語教師の給与のしくみと待遇についてまとめたページです。日本語教師は薄給や多忙というネガティブなイメージを持たれることが多いですが、実際はどうなのか、日本語教師で生計を立てるためにはどうすればいいのか、どうキャリアアップすればいいのかといった点について見ていきましょう。

目次

雇用形態と給与の仕組み

常勤と非常勤

日本語教師の雇用形態には「常勤」と「非常勤」がありますが、常勤には一定の学歴と経験が求められるため常勤として働く教師は少なく、地域によって差はあるものの、日本語教師の約7割が非常勤です。 常勤はフルタイム勤務ですので月給ですが、非常勤は「コマ給」または時給です。コマ給とは、働いたコマ数に応じて給与が支払われる賃金形態のことで、たくさん授業をこなすほど給料が多くなる仕組みです。非常勤教師は、週に2~3日のペースで勤務する人が多く、授業準備に余裕のある場合は複数校を掛け持ちする人もいます。

月収とコマ給の平均

常勤の場合、月収は最低20万円ほどで、経験や能力に応じて差がつきます。平均年収は約300~400万円です。教務主任などの役職につくと、これよりも増えることになります。 非常勤の場合、1コマあたりの単価は約1,500~2,000円で、年収は約150万~300万円が相場です。講師派遣会社や企業内講師の場合は、3,000円と相場より少し高めのようです。非常勤の場合は、保険や有給休暇などの福利厚生が受けられない場合もあるため、応募要項等でよく確認してください。 学校により、授業時間外の採点や教材作成をした場合、残業代や手当が支給されることもあります。

業務量・待遇の問題

給与に見合わない業務量

日本語教師の仕事にネガティブなイメージがついて回っている要因のひとつが、仕事量の多さです。日本語教師全体の7割以上を占める非常勤教師は、曜日や時間ごとに授業を行います。そのため、日本語学校では、1クラスを複数人の教師が担当することとなります。学生にとっては様々な日本語に触れられるというメリットがありますが、教師側は「引継ぎ」業務が非常に大変な作業となります。 授業内容が1学期(3ヶ月)ごとにあらかじめ細かく決められているため、教師は確実に自分の担当箇所を行う必要があり、次の授業を担当する教師は、前回の授業までに導入した単語や文法のみを使って進めていかなければなりません。教師が変わっても授業の内容が繋がるように、引継ぎ作業が必須なのです。翌日の授業を担当する教師への報告として、導入した単語や使用した例文と場面、学生の様子等をまとめた「授業報告書」を毎授業後に作成します。 この引継ぎ業務ですが、教師間でのトラブルに発展するケースもあります。決められた内容を導入できなかった場合には、次の教師がカバーする必要があり、直前に教案の予定が狂ってしまうためです。こういった変更や調整が続くと、教師のストレスになってしまい、教師同士の関係性の悪化に繋がってしまうのです。 また、常勤教師は、授業に加えて、学生の面接練習、進路指導、イベントの準備なども行わなければならなりません。常勤教師は、さらにサービス労働の割合が大きくなっています。

日本語学校への是正勧告

2020年12月に、ある大手日本語学校を運営する会社に対して、同校の非常勤教師が労働基準監督署へ申告を行うということがありました。翌月には労働基準監督署が是正勧告を出したことを受けて、非常勤教師が会見を行いました。1コマあたりの給与は支払われているものの、授業時間外の業務が多くサービス残業が強いられている実態を訴えるためでした。 同校の非常勤教員は、ほとんどがコンビニやスーパーでのアルバイトとダブルワークをしており、フルタイムで働く教師の年収も約164万円だったとのことです。このような環境で、新人の非常勤教師の2年未満の離職率も「8割」と高くなっていました。 この日本語学校への是正勧告などを受けて、時間外労働に手当を出す学校も増え、日本語教師の待遇を見直す動きが高まっています

待遇による性別や年齢の偏り

日本語教師は一般的な会社員に比べると給与が低い傾向にあり、単身者や家族を養う立場にある男性には厳しいのが実情です。日本語教師の年齢層は40代~60歳以上が全体の7割を占めており、時間単位での勤務を希望する主婦層や定年退職後の方が主力になっていると考えられます。

給与が低い理由

日本語教師には明確な基準や免許がない

文化庁主導で日本語教師を国家資格にする動きはあるものの、日本語教師には今のところ、国内の小中学校・高校で働く教師たちが保持する「教員免許」のような資格がありません。そのため、「日本語を教えたい」「異文化に触れたい」と思えば、資格がなくてもボランティアや非正規雇用として、誰でも日本語を教えることができ、この手軽さが日本語教師の軽視や薄給に繋がっていると考えられます。

日本語へのニーズに比例

一般的に、物やサービスの値段(価値)は、需要と供給の関係で決まります。「日本語を教える」というサービス、転じて日本語教師の給与も、日本語を習いたいという需要で決まります。その需要がどこにあるのかというと、8~9割がアジアです。 国内の日本語教育機関の学生の国籍は、中国、ベトナム、ネパール、台湾、韓国が上位1~5位で、割合にすると約84%を占めています。これらの国々は、物価や所得が日本と同等かそれ以下です。 また、日本語が海外で公用語となっている国はありませんので、日本語のニーズは、日本または日本人に関する事柄だけになります。英語やスペイン語といった使用人口の多い言語とは事情が異なります。 参考:日本語教育振興協会 令和元年度 日本語教育機関実態調査 https://www.nisshinkyo.org/article/pdf/overview05.pdf

日本語教師キャリアアップと今後

キャリアアップのためにできること

420時間の養成講座を修了し、非常勤教師としてキャリアをスタートさせる方がほとんどだと思いますが、ある程度(3年くらい)の経験を積むと、常勤教師へ応募することが可能となります。常勤講師として3年勤務すると、次は主任へステップアップすることができます。また、合格率は2~3割前後と低いですが、日本語教育能力検定試験に合格することも役職や給与を上げるポイントです。 いちばん待遇が良い資格は、日本語に関する専攻での修士課程で、大学や研究所などの教育機関で勤務する場合には必須の条件です。ただ、現在学生でない方が再度大学や大学院に入り直すのは、時間や費用がかかるという点で、得策とは言えませんので、コツコツと経験の積み重ねや資格の取得に務めることがベストだと思います。

デジタルスキル

コロナウイルスの影響により日本語教育業界は今厳しい状況に直面していますが、入国規制が緩和され留学生の来日が再開されれば、日本語教師の求人や学校の運営も持ち直していくと考えられます。ただ、しばらくはオンライン授業や教室とオンラインの授業の併用が続くことが予想されるので、日本語教師もパソコンスキルやITリテラシーを習得することが急務です。

専門職のための日本語

これまで外国籍の方が働くことができなかった介護や建設、外食などの分野に特定技能ビザが創設され活躍が期待されています。日本語教師が教える場所は学校に限らず、様々な専門的な場所に拡大していくと考えられます。そのため、一般的な教科書に加えて、ビジネス日本語や日本のマナー、専門用語を教えることのできる日本語教師が重宝されるようになるでしょう。

まとめ

日本語教師は、給与よりも自身のやりがいやスキルアップを重視して働きたい方に向いている職業かもしれません。一般的な職業に比べて待遇は低いですが、経験やスキルに応じて着実にステップアップができます。学習者との異文化交流を通じて教師側にも学びがある点や、学習者が実力を伸ばし夢を叶える姿を見守ることができる点などに、魅力とやりがいを感じて勤務されている方が多い印象です。

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