どのように日本語を教えるか

近年ますます需要が増えつつある日本語教師の仕事ですが、日本語教師はどのようにして、日本語が母語でない学習者に指導しているのでしょうか。使用している手法や道具を見ていきましょう。

目次

直接法と間接法

まず、指導方法は大きく分けて2つあり、「日本語で日本語を教える直接法」と「英語などの他の言語を通じて日本語を教える間接法」があります。この直接法と間接法という用語は、日本語教師になりたい方には必ず覚えておいていただきたいキーワードです。

日本国内の日本語学校では直接法

日本国内の日本語学校では、基本的には直接法が使われることが多いです。その理由としては、日本国内にある日本語学校には、いろいろな国からの学習者が集まってきており、必ずしも英語が理解できる方だけではないからです。

そのため自然とクラス内の共通語は日本語となります。学習者にとっては日本語を使用する機会が増えることになり、日本語習得を促進します。

また、日本語教師全員が英語力が高いわけではなく、英語で教えることのできる教師は数少ないということも事実です。英語で日本語をきちんと教えるための能力は、かなりのものが求められ、日常会話ができる程度の英語力では、到底太刀打ちできるものではありません。

海外の日本語学校では間接法

海外にある日本語学校では間接法が使われることが多く、その際に使われる言語は現地の言葉や英語です学習に関して母語によるサポートが可能になるという利点があります。 いずれにせよ、海外に住むということだけでもある程度の語学力が必要となりますし、将来は海外の日本語学校で働きたいという方は、英語や現地語の学習にも力を入れるようにしましょう。

直接法での指導方法

日本語をまだあまり知らない外国人に日本語で日本語を教えると言っても、一体どうやって教えるのか全く想像がつかない方も多いことでしょう。具体的な指導方法を説明していきます。

名詞の教え方

日本語の学習者が日々学習するのは「語彙」です。中でも身の回りの生活用品や学習用具、食べ物の名前などが最初の学習内容です。名詞を教える場合は、イラストが書かれたカードや写真などを用いて教えることが多いです。

例えば「りんご」の場合、りんごが書いてあるイラストカードまたはりんごの写真を提示して、「これはりんごです」と説明します。

どの国にもある食べ物の場合は、イラストや写真を見せるだけで十分ですが、日本にしかないものの場合は、新しい概念として説明することも必要です。例えば、みかんはあまり海外では見られないため、比較対象として分かりやすいオレンジを提示して、「(オレンジより)小さいです」のような補足説明をします。

動詞の教え方

「食べます」「泣きます」などの動詞を教える際は、イラストや写真の他に、ジェスチャー(実演)を使うこともあります

ジェスチャーはその場でクラス全員で実践することができますし、国によって動作が異なるものもありますので、新たな話題が生まれて学習が活発になることも期待できます。

例を挙げてみましょう。

学習者:「食べます」は、どんな意味ですか?

教師:(右手で箸、左手で皿を持ち、口をもぐもぐするジェスチャー) 教師は一言も言葉を話さずに、学習者に「食べます」の意味を伝えることができます。

まだ学習していない難しい言葉を使いすぎると、学習者が混乱してしまうこともあるので、直接法で日本語を教える際は、教師はあまり話しすぎないこともポイントです。

たくさん口頭説明をするというよりは、例文やイラスト、ジェスチャーをたくさん示します。 また、例えばこのような指導方法を取ることもできます。

学習者:「食べます」は、どんな意味ですか?

教師:「食べます」は「ご飯を食べます」「パンを食べます」。では、「水」はどうですか?

学習者:「水を飲みます」です。

このように例文を用いて教えることもできます。ついでに、関連した質問を最後に付けることで、学習者の語彙をさらに広げる工夫もできます。 「泣きます」も同じ要領で教えることができます。

学習者:「泣きます」は、どんな意味ですか?

教師:(泣くジェスチャーをする)では、これは何ですか?(笑う表情を作る)

学習者:「笑います」です。

形容詞の教え方

形容詞の場合は、名詞や動詞の教え方にもうひと手間加えます。イラストやジェスチャーを使えばいいのではと思われる方もいらっしゃると思いますが、例えば「おいしい」を表現したいときに「おいしそうな顔」をしても、学習者がどう捉えるかは相手次第な部分があり、「嬉しい」「甘い」「幸せ」などと、いろいろな意味で取られてしまうことがあるので、ジェスチャーを使うことはあまり実践的ではありません。

そこで、形容詞の場合には「比較」を使います。「長い」と「短い」を教えるとしましょう。長さの異なる2本の鉛筆を用意し、学習者に見せながら、「この鉛筆は長いです。この鉛筆は短いです。」のように、対になる形容詞をセットで導入します。「大きい」と「小さい」、「遠い」と「近い」、「高い」と「低い」なども同じ要領で比較を見せながらセットで教えていきます。

文法の教え方

文法は、イラストや写真、ジェスチャー、そして、既習の文法を使って教えます文法によって適切な導入方法が異なりますので、どの手法を使うかは教師次第です。 例えば、「私は〜が好きです」という文法を教えるとします。

教師:私は昨日コーヒーを飲みました。今日もコーヒーを飲みました。私は毎日コーヒーを飲みます。(「好き」を表すハートのカードを見せながら)私はコーヒーが好きです。

教師:私は昨日散歩をしました。今日も散歩をしました。明日も散歩に行きます。 (ハートのカードを見せながら)私は散歩が好きです。

教師:私は先週、映画館に行きました。今週も映画館に行きます。来週も映画館に行きます。(ハートのカードを見せながら)私は映画が…?

学習者:好きです。

新しい文法を教える際、教師は使用する単語や文法を既出のものにとどめなければなりません。これを「語彙コントロール」と言います。授業準備の段階で説明内容をしっかりと整理する必要があります。

間接法での指導方法

間接法を使う場合は、媒介となる言語があるので、その言語を使って直接説明することができます。例えば「好き」を表す場合には、英語の場合「like/love」と伝えればいいですし、「りんご」を教えたい場合「apple」と教えればよいです。

直接法で教える際も、日本語での説明が複雑になってしまうときや、正確に伝えたい重要なポイントは、学習者の母語や英語を使って端的に説明してもいいと思います。

直接法の中に間接法を混ぜて指導している日本語教師もいます。 語学力に自身がある方は、間接法で指導している学校や教育機関で働くことも視野に入れてみてはいかがでしょうか。

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