ある日本語学校の授業には「日本の慣習」について学ぶものがあることを、知っていますか?
日本語の文法を解説するだけが、日本語教師の仕事ではないのです。
学習者が日本文化や慣習を理解し、そのうえで日本語をマスターする、それが日本語教育です。
この記事では、まず日本語学校の位置づけについて整理します。
そして、実際の日本語学校のカリキュラムをいくつか見ていきながら、それぞれ学生の目的やタイプなどを解説します。
また、国内と海外の日本語学校を比較し、総括して、最近の日本語学校の動向を掴むという流れになっています。
日本語学校とは?
さて「日本語学校」とは、どういった学校なのでしょうか?
「日本語を専門的に学ぶなら、専門学校?」と頭に浮かぶかもしれません。
しかし、学校教育法によって「外国人が主な対象となる学校は、専門学校と認められない」とされています。
日本語学校は、法務省入館管理局にて「告示」という留学生を受け入れる条件を提示したもので規定されています。
その告示を守っている学校を「告示校」といいます。
現在では「在留資格が留学である留学生に日本語を教えている学校」が一般的に日本語学校と言われています。
その告示校には、国からルールが科せられています。
例えば、1コマは45分以上で、1年間の授業数は760コマ以上でなければならない。
つまり、学生は年間で570時間授業を受けるということになります。
授業の定員数や教師の条件などにも、規定があります。
それでは、具体的なカリキュラムについてみていきましょう。
日本語学校のカリキュラムの例
一般コース
「読む、書く、聞く、話す」という総合的な日本語能力を身につけることを目標としています。
進学やビジネスにフォーカスしたコースよりも、体系的に日本語を学ぶことができる点が特徴です。
初級
日常生活にフォーカスした日本語の習得や、次のレベルでは敬語を学習し、相手によって日本語を使い分けることを目標としています。
教材は『みんなの日本語Ⅰ・Ⅱ』などで、ひらがな、カタカナの読み書きに加え、基本漢字2,300字の読み書き、300語程度の語彙の文章の理解などを行います。
ロールプレイング形式の会話練習や基本文法の理解も大切にしています。
中級
自然な会話表現をし、少し専門的な話題でも理解することを目標としています。
教材は『学ぼう!にほんご中級』などで、基本漢字5,000字の読み書き、600語程度の語彙の文章の理解を行います。
その他には、中級文法、長文作文なども行います。
上級
さまざまなテーマをスムーズに理解し会話ができること、社会問題などの専門的なテーマも意思疎通ができることを目標としています。
教材は『学ぼう!にほんご上級』などで、10,000字の漢字の読み書き、2,000程度の語彙の文章理解を行います。
総合的な日本語能力の育成をします。
進学コース
大学や専門学校への進学を目的とする学生が対象です。
年に数回JLPT(日本語能力試験)とEJU(日本留学試験)の試験を積極的に行います。
JLPTとEJUについては、後述します。
その試験結果によって、3か月に1回進級や再履修を行う学校もあれば、1年間そのままのクラスで授業を進める学校もあります。
内容は、以下のとおりです。
漢字
日本語能力試験N1頻出漢字、N2頻出漢字
聴解
JLPT・EJU聴解試験の練習
文法
日本語能力試験N1、N2文法
読解
JLPT・EJU対策
教材・新聞を使っての練習
作文
点数になる作文練習
ビジネスコース
日本の企業で働くことを希望する学生向けで、社会での実践力をつけるカリキュラムが特徴です。
中身も、単なる敬語の練習だけではなく、日本の慣習についても学ぶことで日本社会を理解し、必要なスキルを身につけることができます。
日本語教育の目的には、日本語を話せるようになること以外にも、日本語を通じて日本を知っていくという面もあります。
内容は、以下のとおりです。
ビジネス知識
日本の企業の特徴、日本の慣習・マナー
コミュニケーション
敬語、ビジネスロールプレイング、ビジネス表現
BJT(ビジネス日本語能力テスト)対策
就職活動支援
時間割について
時間割については、以下のとおりです。
午前のクラス
1時間目:9:00~9:45
2時間目:9:55~10:40
3時間目:10:50~11:35
4時間目:11:45~12:30
午後のクラス
1時間目:13:00~13:45
2時間目:13:55~14:40
3時間目:14:50~15:35
4時間目:15:45~16:30
午前中クラスと午後クラス、いずれかを選ぶパターンもあります。
午前中は日本語学校へ通って、午後はボランティアの日本語サークルへ行って会話練習をする人や、がっつりアルバイトをして生活費を稼ぐ人もいるようです。
また、午前か午後どちらかをクラスレッスンで他の人と一緒に受けて、残りの時間を先生と1対1のプライベートレッスンにあてる人もいます。
その他に有効な時間の使い方としては、せっかく日本で生活しているので、学校外の活動に積極的に参加し、そして生の日本語にどんどん触れてリスニング力を鍛えるというやり方もあります。
先ほど紹介した、日本語学校のカリキュラムはもちろんですが、それぞれの学生に合った方法でないと日本語能力はなかなか伸びません。
JLPT(日本語能力試験)とは
日本語を母語としない人を対象に、日本語能力を認定する検定試験です。
公益財団法人日本国際教育支援協会(JEES)と独立行政法人国際交流基金(JF)が主催しています。
レベルはN5からN1まであり、N5が一番易しく、N1が一番難しい級となります。
就職の際に、日本語能力の証明に企業が提示を求めるほか、進学にあたって学校側も、JLPTを外国人留学生の日本語能力がどの程度であるかの指標にしている場合もあります。
就職や進学など、自身のステップアップのために受験する人も多いです。
EJU(日本留学試験)とは
独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)が主催しています。
出題科目は、以下のとおりです。
・日本語
・理科(物理・化学・生物)
・総合科目
・数学
JLPTとの違いは、日本語能力だけでなく、基礎学力も測る目的の試験だという点です。
大学などに進学する外国人留学生が受けます。
海外の日本語学校は?
日本国内の日本語学校は、ビジネス系カリキュラムが充実している学校も多くあります。
では、海外はどうでしょうか?
今までは、自国である程度日本語を学んでから、日本へ留学をするという人も多いせいか、海外の日本語学校では、先ほど紹介した「一般コース」のカリキュラムを採用している学校が多いように感じました。
しかし、近年では、外国へ進出した日本企業が現地の人々を雇うといった「産業人材」の需要も見られます。
そのため、海外にいても、日本企業で働く場合に求められる、ビジネスに特化したカリキュラムが必要とされてきています。
また、現地の国籍の教師と日本人教師の両方が在籍する学校も多くあります。
こういった形態でのメリットは、自分の母語が通じるため、日本語がまったく初めての人でも通いやすいという点です。
自国の教師が、母語で日本語を解説してくれるクラスと、日本人のネイティブの教師が発音などをメインで担当するクラスを用意するなど、海外ならではの利点を日本語学校のカリキュラムに活かしています。
まとめ
ざっくりと一般的な日本語学校のカリキュラムを「一般コース」「進学コース」「ビジネスコース」と分けて見てみました。
それぞれの目的に合わせて、細かい内容も工夫されていることが分かりました。
今後は、技能実習生や特定技能などで来日する人が増加すると言われています。
国内外ともに、先ほど紹介した「ビジネスコース」のようなカリキュラムを受講できる学校のニーズが大きくなるでしょう。
一般企業で就業した経験のある日本語教師も、新卒で日本語教師になった人も関係なく、どのカリキュラムでも教えられるように準備していきたいものです。