【日本語教育の需要】非常勤教師の現状や今後の見通しについて

新型コロナウイルスの影響により、入学予定であった留学生が来日できず、学生の国と繋いでオンライン授業を行ったり、授業自体を中止したりしなければならない日本語学校が多いのが現状です。

コロナ禍で日本語教師の働き方がどのように変化したのか、今後日本語教育への需要はどうなるのか、新聞記事を中心に見ていきたいと思います。

目次

留学生の減少

文部科学省が2021年3月30日に発表した「『外国人留学生在籍状況調査』及び『日本人の海外留学者数』等について」によると、2020年5月1日現在の外国人留学生数は279,597人でした。

前年比で32,617人(10.4%)の減少でした。

これには、新型コロナウイルスの影響により、予定していた時期の渡日ができず、やむなく海外現地でオンライン授業などを受講していた学生も含まれています。

教育機関別で見ると、大学などの非正規課程や準備教育課程、日本語教育機関が減少となった一方、大学・短大の正規課程及び専門学校は増加傾向にあります。

ただ、日本語学校の留学生が減少しているため、その進学先である大学や短大、専門学校も1~2年後には減少に転じる可能性が考えられます。

参考:
文部科学省「外国人留学生在籍状況調査」及び「日本人の海外留学者数」等について https://www.mext.go.jp/content/20210330-mxt_gakushi02-100001342-01.pdf

非常勤教師の状況

窮地に立たされているのが非常勤教師です。

筆者の周囲でも、以下のような声がありました。

・担当授業数が減った
常勤教師のみで学校が回っているので、非常勤教師には仕事がない

非常勤教師が今どのような状況にいるのか、2020年~2021年の新聞記事を見ていきましょう。

賃金補償のない教師が7割

日本語教師で作る労働組合「日本語教師ユニオン」が、休校に伴って仕事を休まざるをえなくなった非常勤講師182人を緊急で調査したところ、およそ7割が賃金の補償について提示されていないと回答したということです。

非常勤講師は授業を行った回数に応じて賃金が支払われるケースがほとんどです。

そのため、休校で授業がなくなると収入がなくなるおそれがあります。  

参考:
NHK NEWS WEB「日本語学校の非常勤講師7割が賃金補償提示されず」 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200309/k10012321521000.html

突然の契約変更

福岡市内の日本語学校の非常勤講師から、西日本新聞「あなたの特命取材班」に、以下のような訴えが届いたそうです。

新型コロナウイルス禍の中で、直接雇用から業務委託に契約変更され、休業手当や国の支援金をもらえなくなりました

2020年9月に、4月にさかのぼって業務委託へ変更する旨の契約書にサインをしたといいます。

こちらの講師は、授業(90分1コマ)の数に応じて賃金が決まる契約を結んでいました。

契約書に明記された雇用期間は、2020年3月末まででした。

他にも同じような契約を結んだ非常勤講師は10人以上いたようです

新型コロナの感染拡大で、2020年3月頃から授業がなくなり自宅待機になりましたが、4月以降も非常勤の雇用契約が維持されていると認識していました。

7月に対面授業が再開し、少しずつ担当授業数も増え、7・8月分の給与は通常通り支払われました。

ところが、9月上旬に業務委託契約書にサインするよう学校側から求められ、のちにその契約変更が4月にさかのぼると知ったそうです。

会社の都合で労働者を休ませた場合、会社側は休業手当の支払い義務が生じますが、業務委託契約を結んでしまうと対象から外れます。

福岡労働局によると、今回の場合、講師の仕事に専門性があり、日々学校側から細かい指示を受けずに授業だけをこなしている点を踏まえると、業務委託の形式でも違法性はないとのことです。

参考:
西日本新聞「突然の契約変更…休業手当の支払い回避狙い?非常勤講師「事前説明はなかった」」 https://news.yahoo.co.jp/articles/0812c8fdabe2b00eff95f2f1d481dfc89218dece?page=1

業務委託契約と日本語教師

業務委託契約は、会社が業務を外部の企業や個人に委託する際に行う契約で、会社員や契約社員とは異なり、会社と雇用関係を結びません。

会社側は、業務の進め方や労働時間に関して指揮命令を出すことはなく、あくまでも委託された業務を遂行することもしくは成果物を完成させることで報酬が支払われます。

日本語教師の場合は、非常勤教師フリーランスの教師に適用される契約形態です。

例えば、学校側が「1日90分×2コマの授業を行う」という仕事を依頼し、教師はそれを完了することでコマ給を受け取ります。

最近では、採点や残業に手当を支払う学校も増えていますが、業務委託契約の場合は、そのような手当てを支払う必要がありません。

コマ給の中に授業前の準備から授業後の採点や成績管理、引継ぎまでの労働報酬が含まれています。

前項のとおり、休業の場合も特に手当はありません。

つまり、コロナ禍でやむなく授業が中止になり、非常勤教師の業務がなくなった場合、その間の給与や手当を支払わなくてよいので、学校側の負担はかなり軽減されます。

そのため、前項の新聞記事のような突然の契約変更が行われたのだと考えられます。

参考:
マイナビ転職「業務委託で働くメリットとは?働き方や注意点、会社員・派遣社員との違いを解説」 https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/caripedia/99

大学勤務の非常勤講師

日本語学校に限らず、留学生が受け入れらないのは大学も同じです。

2020年8月、千葉県の大学で勤務する非常勤講師は、後期の授業準備を進めていたさなか「授業が開講できなくなった場合、講師料の支払いはありませんので、ご了承ください」というメールを受け取ったといいます。

9月には一転して、大学の担当課から全額支給とのメールが届きました。

これにより、こうした場合の学内の取り決めがないことが判明しました。

おかしいと思っても声を上げられない、非正規雇用の立場の弱さを実感したとのことです。

参考:
東京新聞「日本語非常勤講師が苦境、留学生来日できず収入減」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/55196

今後の見通し

日本語教育の需要

Guidable株式会社が在留外国人を対象に行った意識調査(2020年3月26日実施)によると、日本に在留する外国人の66%が「母国に帰るよりも日本に残りたい」と考えていることがわかりました。

帰国しないと回答した理由には、以下のような現状を冷静に分析するコメントが並んだそうです。

・アメリカは日本より状況が悪い(国籍:アメリカ)
・すべての国に新型コロナウイルスはまん延している(国籍:アルゼンチン)

コロナにより日本に渡航するタイミングを失い、規制緩和を待つ特定技能ビザの労働者も大勢控えています。

日本の高齢化が加速する中で、農業や食品製造、介護といった業界を維持するには、外国人の労働力が不可欠です。

政府は2023年度中に、34万5,000人の特定技能の受け入れを見込んでいます。

来日する留学生や外国人労働者が、新型コロナウイルスの影響で一時的に減少することはあっても、もともと日本に在住している外国人や、今後来日する外国人労働者により、日本語への需要は維持されると考えられます。

そのため、日本語を母語としない方に日本語を教える日本語教師も、進学のための日本語に限らず、生活のための日本語や仕事のための日本語といったように、多岐にわたる分野で求められるのではないでしょうか。

参考:
PR TIMES「日本に在留する外国人の6割以上が「母国に帰りたくない」、Guidable「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する意識調査」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000020.000017621.html

日テレNEWS 24「コロナ禍の外国人労働者「特定技能の苦悩」
https://www.news24.jp/articles/2020/12/31/07795592.html

日本語教師の求人

来日者数や授業数の減少に伴い、日本語教師の求人数も以前と比較すると減少していましたが、最近は回復しつつあります。

ウェブサイトには、国内外のさまざまな求人が掲載されていました。

日本語教師はもともと人手不足の業界であるため、コロナ禍の現在でも、どちらかというと売り手市場と言えるのではないかと思います。

勤務形態が「在宅勤務」「オンライン」となっている求人票もかなりあるため、日本語教育の知識と並んでオンライン対応のスキルも重要になってきています。

オンライン授業を行うことができれば、応募できる求人の幅が広がります。

参考:
日本語教師の集い
https://www.e-tsudoi.com/db_job/job/job_bbs_list.php

日本語オンライン
http://nihongo-online.jp/net/

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