あなたが海外の英語圏の大学へ留学したいと考えているとしたら、何をしなければならないでしょうか?
もちろんさまざまな準備が必要ですが、英語で授業を受けることができる能力を所持していることの証明は欠かせません。
その手段として、世界でもっとも受験されている大学進学向けの英語試験はIELTSです(2021年現在)。
今までは、イギリスやオセアニア地域に留学を希望する人が中心でしたが、近年ではアメリカやカナダにおいても、ほぼすべての大学がIELTSのスコアを受け入れるようになりました。
この日本語版として存在しているのがEJU(日本留学試験)です。
海外で日本語を教える場合、日本への留学を希望する学生を対象とするケースも多いので、このEJUについてしっかり理解しておく必要があります。
今回の記事では、このEJUについて解説します。
EJUとは?
EJUとは、日本の大学などに進学を希望する外国人留学生に対して課せられる試験で、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)が実施しています。
日本の大学などで講義を受講するために、必要な日本語力および基礎学力を持ち合わせているかを評価するために行われています。
日本の大学の60%以上にあたる485校、国立大学においてはほぼすべての大学が、入学選考にEJUの成績を利用しています。
EJUは、多くの高等教育機関が入学の条件として義務づけていた「日本語能力試験」と「私費外国人留学生統一試験」の2つの試験に代わる試験として、2002年より年2回、日本国内と国外で実施されています。
EJUの実施科目は、日本語、理科(物理・化学・生物)、総合科目および数学です。
学校によって指定されている受験科目が異なるので、必要科目を選択して受験することになります。
なお、日本語科目以外の出題言語は日本語と英語があり、出願時に選択できます。
参考:
独立行政法人日本学生支援機構 入学試験にEJUを利用している学校
https://www.jasso.go.jp/ryugaku/study_j/eju/examinee/use/index.html
大学の中には個別の入学試験を実施せず、EJUの成績と高等学校の成績のみを判断材料として合否を決める大学もあります。
その場合、日本に渡航することなく、自国にいながら受験することができて合否判定もわかります。
参考:
独立行政法人日本学生支援機構 渡航日前に入学許可を行う大学
https://www.jasso.go.jp/ryugaku/study_j/eju/examinee/prearrival/uni_national.html
また、EJUの成績優秀者は、希望すれば「文部科学省外国人留学生学習奨励費」給付を申請することができます。
入学後に奨学金(48,000円/月(2019年度))を受給できます。
参考:
独立行政法人日本学生支援機構 留学生受入れ促進プログラム予約制度https://www.jasso.go.jp/ryugaku/study_j/scholarships/shoureihi/yoyakuseido/index.html
発展途上国からでも日本に留学しやすいように、経済的負担の軽減について配慮された制度と言えます。
それは、日本が国策として海外からの留学生受け入れを強化しているからです。
その結果、経済的に余裕がない学生であっても、日本に渡航することなく、ある程度の留学準備ができる制度として整備されました。
海外で日本語教師を行うのであれば、留学したい学生の総合的な支援を行うために、制度全体をしっかりと理解する必要があります。
参考:
文部科学省「留学生政策をめぐる現状と施策」
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/043/siryo/__icsFiles/afieldfile/2019/01/21/1396556_6.pdf
2021年現在のEJU実施(予定)国は、以下の国です。
インド、インドネシア、韓国、シンガポール、スリランカ、タイ、台湾、フィリピン、ベトナム、香港、マレーシア、ミャンマー、モンゴル、ロシア
参考:
独立行政法人日本学生支援機構 日本留学試験国外実施 問い合わせ先(アジア)
https://www.jasso.go.jp/ryugaku/study_j/eju/examinee/contact/asia.html
JLPT(日本語能力試験)との違い
EJUは前述のとおり、日本の大学などで講義を受けることができる日本語力の測定を目的としています。
それに対してJLPT(日本語能力試験)は、一般的な日本語能力の測定を目的としています。
公益財団法人日本国際教育支援協会(JEES)と独立行政法人国際交流基金(JF)によって、実施されています。
ちなみに、前述した英語試験・IELTSには、以下の2つが存在しており、日本でいうEJUとJLPTの両方の役割を担っているようです。
Academicモジュール
大学進学向けの試験
General Trainingモジュール
移住目的で受験
試験内容にはそれぞれ特徴があります。
まず、JLPTには記述問題がありません。
一方、EJUには語学としての知識(語彙や文法)を問う問題はありません。
それぞれの試験の目的に合った問題が出題されていますので、難易度などを比較することはとても困難です。
基本的には、日本の大学などへ留学を希望する場合は、EJUを受けなければなりません。
しかし、EJUが実施されない国・地域の受験者については、JLPTの成績を代替としている大学も存在します。
もし留学を希望する学生が、EJU実施(予定)ではない国や地域に在住しているのであれば、JLPTで代替できる場合があります。
志望校ごとに異なっているので、個別に確認してください。
ちなみに、JLPTの方が多くの場所で実施されています。
参考:
JLPT公式サイト 海外の実施都市・実施機関一覧
https://www.jlpt.jp/application/overseas_list.html
教育機関以外ではあまり知られていないEJU
今まで見てきたように、日本の教育機関への留学を希望する学生たちにとって、EJUはとても重要な位置付けにあるのですが、日本社会ではEJUの存在はあまり知られていません。
日本での就職を考える際、企業が採用の条件として課しているのはJLPTです。
留学後も日本在留を希望するのであれば、日本語力が一番高いタイミングで、JLPTを受験しておくことが無難です。
しかし、これには留意しておいたほうが良い事情があります。
例えば、企業の採用条件としてJLPTのレベルを表す「N1」や「N2」が書かれていたとしても、それは簡単に日本語能力を測りたいから条件に記載しているのであり、必須条件とまではなっていないこともあるということです。
例えば、英語力が問われる求人にも同じことが言えます。
必要な英語力として求人票に「TOETC 800点以上」と書かれていたとしても、790点の人がそれだけを理由に選考から漏れてしまうことはほとんどありません。
あくまでも、目安として使われることが多いからです。
前述のように、JLPTとEJUとでは、単純に比較できません。
JLPTを受験できていない留学生がいたら、EJUでの成績通知書に書かれている結果から、留学生自身の日本語力をある程度説明できるようなアドバイスをしてあげたほうが良いでしょう。
EJUの内容について
EJUは、以下の内容から成り立っています。
・理解力を問う問題(読解、聴解、聴読解)
・発信力を問う問題(記述)
読解、聴解、聴読解
読解のパートでは、文章の読解が中心ではありますが、図表などが提示されて、それに関わる読解力を問われることもあります。
聴解は、音声によって出題され、聴読解は、図表や文字情報と音声を組み合わせて出題されます。
読解、聴解、聴読解領域では、ただ単に文章や談話音声が何を伝えているのかを理解するだけでなく、その他の情報と組み合わせて論理的に解釈していく能力が問われます。
記述
記述領域では、与えられた課題や求められている内容に沿って、自分自身の考えを論理的に組み立てる能力が問われます。
具体的には、自分自身の主張を証明するために、以下のようなことが必要です。
・適切な根拠や実例を提示する
・ひとつの視点ではなく、多角的な視点から考察することで客観性を用いる
・文章構成を考える
・提示された課題・テーマについて、自分の意見を論じる
・記載された課題について、現状を説明して、解決方法やその後の予測について考察する
参考:
独立行政法人日本学生支援機構 日本語シラバス
https://www.jasso.go.jp/ryugaku/study_j/eju/examinee/syllabus/japanese.html
まとめ
読者の皆さまは「留学生30万人計画」というのをご存じでしょうか?
2008年に日本政府によって公表された計画で、2020年を目途に留学生の受入数を30万人に増やすことを目指すというものでした。
その目標は達成されたわけですが、EJUを積極的に活用し、海外にいながら日本留学にチャレンジできる制度を整備できたことが大きく寄与したことは疑いのない事実です。
これからは国策として、留学生だけでなく特定技能実習制度を活用した、海外からの社会人の受け入れも積極的に行われていくことになるでしょう。
それに合わせて、さまざまな制度が整備されるはずです。
今回の記事では、日本語教師として、EJUをはじめ、海外から日本に留学する学生向けに整備された制度について、深く理解することの重要性について学ぶことができました。
それらの制度の存在を知ることで、日本への留学を目指す学生も増えるのではないかと思います。
日本語教師には、日本語を教えるだけでなく、学生のキャリア支援を総合的にアドバイスする責任もあります。
この記事が、進学に関して正しいアドバイスをする一助になれば幸いです。