【ステップアップ】日本語教師が大学院で学べることや活躍する方法とは?

「日本語教師になるために大学院へ行く必要はあるのでしょうか?」という質問に対する答えは「NO」です。

しかし、何年か日本語教師として活躍されている方に、以下のような質問をされたら大学院に進学して研究してみたらどうでしょうか」と答えるでしょう。

・非漢字圏の学生に対して日本語を教えるには、どうしたら効率的なのかを考えてみたいのだけど、どうしたらよいか?

・初心者に対して何から教えていけば効果的なのかを検証してみたいのだけど、どうしたらよいか?

今回は、日本語教師と大学院について考えていきましょう。

目次

日本語教師と大学院進学

日本語教師になりたいのであれば、大学院はおろか、大学を卒業している必要もありません(※海外で日本語教師になりたいのであれば、ビザの関係で大学を卒業している必要があるケースが多いのでご注意ください)。

下記のいずれかを満たせばよいのです。

① 大学の主専攻または副専攻で日本語教育を学んだ者
② 日本語教師育成講座(420時間以上)を修了した者
③ 日本語教育能力検定試験に合格した者

しかし、前述のように、解決したい問題を抱えているのであれば、話は別です。

日本語を教え始める前から、日本語教育への問題意識や研究したいテーマが明確な方はほとんどいないと思います。

日本語教師になって、日々日本語教育を行うなかで、壁に当たったり疑問を感じたりすると、以下のようと感じるようになるのではないでしょうか

・体系的に学び直したい
自分の教育方法が正しいのか検証してみたい

その場合、大学院に進学するという手段は非常に有効です。

大学院は、学ぶ場であると同時に研究を行う場なので、成果をあげるためには能動的な問題意識や就学目的が必要であり、受身的に授業を受けるだけでは意味がありません。

すでに日本語教師として活躍されている方が、教育者としてのステップアップを図るために復学を検討する場合の、大学院で学ぶ意義について考えてみたいと思います。

大学院に進学する理由

日本語は、日本人にとって母国語であるからこそ、学問的な理解がなくても理解や指導が可能です。

しかし、後輩の日本語教師に対して指導する立場になったとき、自分は表面的な理解しかしていなかったと、知識不足に気付くことが多いようです。

以下のような問題を解決するためには、専門的な知識を持つ相談者と正しい学びが必要で、それが大学院です。

・同僚の日本語教師に対して上手に説明できない
同僚の日本語教師に教えたい知識や方法論があるが、それが本当に正しいのか自信がない

まず大切なのは、大学院に進学して何を解決したいのか、自分自身が明確に理解することです。

参考:
日本語教師になるために必要なこと | 日本語教育を研究したくなったら「大学院」
https://jpnt.biz/japanese-education-in-graduate-school/

大学院に進学する方法

以下のような50校以上の大学院で、日本語を学ぶことができます。

東京外国語大学大学院、一橋大学大学院、東京学芸大学大学院、東京女子大学大学院、早稲田大学大学院、北海道大学大学院、国際教養大学大学院、横浜国立大学大学院、大阪大学大学院、神戸大学大学院など

大学院に進学するためには、基本的には4年制大学を卒業している必要があるのですが、今は大学院の受験資格が大幅に緩和されています。

4年制大学卒業と同等以上の学力があれば、短大や高専、専修学校の卒業生なども、大学院を受験できるようになりました。

その場合、一般の志願者とは入学選抜の方法が少し異なっています。

選抜は下記の2段階で実施されており、それぞれの教育機関に委ねられているので、個々に確認する必要があります。

① 個々の大学院が独自の方法で志願者の学力を見る
②「大卒程度」の学力が認められた人について入試を行う

すでに4年制大学を卒業しているのであれば、社会人入試を活用することができます。

受験勉強の負担を軽くするために、一般入試と比べて、試験科目が軽減されていたり筆記試験が免除されているケースも多いです。

社会人入試を活用する場合、社会人経験3年以上などの条件を設けている大学院が多いため、必ず出願条件を確認してください。

一般的に、社会人入試では外国語試験面接が課されていますが、大学院によっては外国語が免除されて、面接だけで受験できる無試験入学のケースもあります。

その場合は、詳細な研究計画書や勤務先の推薦書の提出を求められたりすることもあります。

大学院で学べること

それでは、実際に大学院ではどのようなことが学べるのか、早稲田大学大学院を例に見ていきましょう。

日本で唯一の日本語教育を主専攻とする独立研究科で、2001年に設立されました。

学部を持たない独立研究科であるため、様々なバックグラウンドを持つ日本語教育経験者が入学しています。

それぞれの大学院生が,自分自身に合った学びをデザインできるように「日本語」「学習・教育」「社会」を3本柱に据えた、理論と実践を両輪とする多様なカリキュラムが用意されています。

さらには、学んだことをすぐに実践できるように、授業ボランティア日本語教育機関への派遣といった場が提供されています。

3つの柱からなる教育カリキュラム

第1の柱は「理論研究」です。

以下のような実際の教育現場で起こっている事象に対し、複合的な視点で最新の研究成果に基づき、理論的な実証・研究に取り組みます。

コミュニケーション、教授法、学習環境、言語教育政策など

第2の柱は実践研究です。

日本語教育研究センターが併設されているという利点を活かし、日本語教育プログラムと連動した日本語教育者養成プログラムを展開しています。

さらにはティーチングアシスタントとして、留学生に対する日本語教育の場にも参加可能です。

いくつかの学外教育機関とも提携し、様々な教育実践の場が確保されています。

第3の柱は演習です。

上記の理論・実践に加え、どのような環境作りが必要なのか、さらに周囲に対してどのような支援ができるのかを考え、理論・実践の両面から研究と論文作成が行われます。

具体的には、以下のようなカリキュラムが用意されています。

地域日本語教育論、年少者日本語教育論、文法論、語彙論、音声学、言語文化論、第二言語習得論、教材・教具論、言語心理学、異文化コミュニケーション教育論、文章・談話論、学習環境デザイン論、量的研究法、質的研究法、外国語教授法、対照言語学、日本語教育評価論 など

参考:
早稲田大学 大学院日本語教育研究科「日研について」
https://www.waseda.jp/fire/gsjal/about/

併設される日本語教育研究センターの存在意義

日本語教育研究センター(Center for Japanese Language : 以下CJL)は早稲田大学にある日本語教育を一元的に担う機関です。

早稲田大学には世界100カ国以上5,000名を越える外国人留学生が在籍し、そのうち半数近くが、このCJLで日本語を学んでいます(2018年現在)。

大学の国際化を目的として、多数の留学生が受け入れられているのですが、そのおかげで日本語教育研究科にとても貴重な教育実践の場が生まれています。

例えば、CJLには日本語学習を支援する「わせだ日本語サポート」が開設されており、留学生の自立学習を支援しています。

日本語学習のアドバイス、教材提供、日本語学習のイベントなどが行われているのですが、そこで日本語教育研究科の大学院生は、ティーチングアシスタントとして留学生に対する1対1での学習サポートを体験します。

サポートの内容は、留学生の目標に合わせた学習計画作成や日本語の悩み相談です。

大学院で学んだことを即座に試すことができる場があることで、より実践力が磨かれます。

参考:
早稲田大学 日本語教育研究センター
https://www.waseda.jp/inst/cjl/

大学院進学によって拓ける道

日本語上級専門家・日本語専門家は、国際交流基金(JF)が定めている、日本語教育のスペシャリストのことを指します。

海外拠点等にある各教育機関の自立促進を目的に、教室での日本語教授以外にも、以下の業務を担っています。

・カリキュラムや教材作成に対する助言
・現地教師の育成
・教師間ネットワークの構築支援 など

応募資格のひとつに「修士号以上の学位を有する者」という条件があるので、大学院に進学し修士号を取得することで、国際交流基金の日本語上級専門家として活躍する道が拓けるわけです。

日本語上級専門家とは

毎年10名前後の募集があります。

任期は、通常2年間(1年間の延長の場合あり)ですが、任国のスクール・イヤーやプロジェクトの終了時期等により、2年未満となる場合があります。

派遣期間中は、以下が支給されます。

基本報酬、在勤加算、住居経費

また、扶養親族が随伴する場合は家族加算、4歳以上18歳未満の子女が随伴する場合は子女教育経費も支給されます。

主な応募資格は、以下のとおりです。

・日本語教育関連分野において修士号以上の学位を有する者
・中等、高等教育機関、日本語学校等の日本語講師として、通算10年以上勤務した経験があること

参考:
国際交流基金 2021年度海外派遣 日本語上級専門家 募集要項
https://www.jpf.go.jp/j/about/recruit/download/2021-js-guide.pdf

日本語専門家とは

募集枠としては、日本語上級専門家の倍(20人)以上であるケースが多いです。

応募要件は、日本語上級専門家との共通部分がかなりあります。

日本語講師として2年以上勤務した経験があれば応募可能ですが、10年以上の経験を必要とする日本語上級専門家とは、報酬に圧倒的な違いがあります。

活動内容について

2020年には、世界23カ国にある中核的な日本語教育機関26拠点に、日本語上級専門家が派遣されています(日本語専門家は36カ国53拠点)

参考:
国際交流基金 世界の日本語教育の現場から(国際交流基金日本語専門家レポート)
https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/teach/dispatch/voice/voice/index_2020.html

実際の求人例を見てみましょう。

日本語上級専門家

マレーシアの場合

施設名:
クアラルンプール日本文化センター

クアラルンプール日本文化センター派遣の日本語専門家および現地専任講師等の統括

・JF日本語講座のコーディネート
・授業担当
・同センターの若手専任講師の育成

日本語教育アドバイザー

・マレーシアにおける日本語教師を対象とした研修、セミナー等の企画
・カリキュラム・教材作成に関する助言
・日本語教師間のネットワーク形成支援
・日本語教育に関する情報収集および調査

トルクメニスタンの場合

施設1:
トルクメニスタン国民教育大学(研究所)

トルクメニスタン国内の中等・高等教育機関に対してのアドバイザー業務

・現地日本語教員に対する研修・指導
・カリキュラムについての助言等の支援
・初中等教育向けの日本語教科書の制作
・日本語教師間のネットワーク構築
・日本語教育に関する情報収集および調査

施設2:
アザディ名称世界言語大学

アザディ名称世界言語大学に対してのアドバイザー業務

・日本語学科の現地日本語教員に対する研修・指導
・カリキュラムについての助言

日本語専門家

モンゴルの場合

施設:
モンゴル日本人材開発センター

・日本センターで実施するJF日本語講座の運営
・JF日本語教育スタンダードの普及
・現地日本語教師の育成
・モンゴルにおける日本語教育の拡充への協力など

イタリアの場合

施設:
ローマ日本文化会館

・ローマ日本文化会館が実施するJF日本語講座の運営指導
・現地日本語教師の育成
・イタリアにおける日本語教師を対象とした研修
・セミナーおよび巡回指導
・日本語教師間のネットワーク形成支援・日本語教育に関する情報収集など

参考:
国際交流基金 2021年度海外派遣 日本語専門家 公募ポスト(予定)
https://www.jpf.go.jp/j/about/recruit/japan_2021_haken2.html

まとめ

筆者が学生のキャリア構築をお手伝いしていたとき、大学院への進学理由を聞くと「将来の自分(就職活動)への投資」という回答が多かったです。

特に理系の大学院生には、このような考え方をする傾向が顕著でした。

投資というのは、その行為に対して見返りを求めていることになります。

大学院に進学することで、就職が有利になったり、研究職への道が拓けたりするといったようなことを期待するわけです。

しかし、日本語教師の場合は、具体的に目に見えるような見返りではないかもしれません。

本記事で紹介した日本語上級専門家・日本語専門家といった職種もありますが、募集枠が少ないので狭き門です。

具体的に目に見える見返りがなかったとしても、自分の中に抱えている問題を解決し、プロフェッショナルとしてさらに一段上に登りたいという、自分の思いや意志があれば、そこには当然意味があります。

迷いや疑念、成し遂げたい何かを一人で解決するのはとても困難で、専門家のアドバイスや正しい知識、そして仲間が必要です。

仕事の時間は制限されると思いますが、日本語教師を続けながら通学できる大学もあります。

この記事が皆さんにとって、悔いのないチャレンジができるような一助になれば幸いです。

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