【大学院の選び方】通学方法や気になる学費と奨学金、研究室をご紹介!

日本語教師としてさらに専門性を高めるために大学院進学を決意した場合、果たしてどのような大学院を選んだらよいのでしょうか

大学で日本語教育を専攻していた人は、自分の出身大学の大学院に戻るのが自然な流れかもしれません。

しかし、多くの日本語教師は以下のような状況だと思います。

・大学を卒業していない
・卒業しているけど専攻が日本語教育ではない

今回の記事では、大学院進学を考えている日本語教師が、実際に通学する大学院を選ぶためのポイントについて紹介します。

目次

就業しながら学べる社会人コース

日本語教師として働いている人が大学院に進学する場合、在職しながら通学したいと考える人も多いかと思います。

まずは、社会人でも通いやすい方法を検証してみましょう。

平日の夜間や土日での通学

通常の大学院は、平日の日中に授業が行われています。

しかし、在職しながら大学院に通学できるように、平日の夜間と週末の土日を使って開講する夜間大学院が増えています。

週に1日は休みが取れるようにという配慮から、土曜日の朝9時〜夜9時まで集中的に講義を実施し、日曜日は休講にする大学院も存在しています。

大学と勤務先との距離や、自分の勤務形態に合わせやすいかどうかなども大学院選びの大切なポイントです。

コロナ禍の中、リモートで講義を行う大学院も増えているので、融通性も調べておくとよいでしょう。

実施校例学習院大学大学院

通信制

勤務地や住居の近くに大学院がない場合に便利なのは、通信制の大学院です。

在宅学習による通信指導を中心に、一部スクーリング(面接指導)が実施されます。

在宅学習については、以下を導入し、印刷物での教育だけにならないような工夫がなされています。

・放送授業
・電子メールを活用したレポート指導
・インターネットを活用したリモート授業

情報通信技術を積極的に活用することによって、指導教官と学生の接触機会を増やすことができるので、個人のレベルに応じた指導を受けることが可能です。

ただし、スクーリングはその大学のキャンパスで受けることが多いので、まとまった休みを取得できるような段取りや滞在場所、交通費の確保など、事前に準備しておく必要があります。

実施校例:桜美林大学大学院

長期履修制度を利用した通学

長期履修制度は、まとまった学習時間の確保が困難な社会人が利用することを前提にした制度です。

標準の履修期間より長い期間でのスケジュールがあらかじめ組まれているため、通常業務を行っている社会人であっても、余裕をもって履修できることがメリットです。

通学する年数が増えると、気になるのが学費面です。

多くの大学院では、標準の授業料総額を在学する期間で分割して納めることができます。

ただし、この制度は長期履修が必要な理由がある人でなければ利用できません。

実施校例:国際教養大学専門職大学院

修業年数を1年に短縮した通学

修士課程は通常2年間ですが、専門職大学院が出来たことをきっかけに、1年で修了できるコースが見られるようになりました。

必要な知識を集中して取得し、できるだけ早く職場に復帰したいという社会人のニーズに応えています。

したがって、夏休み夜間にも講義を行い、短期間で履修できるような工夫がなされています。

中には、すべての授業が夜間と土曜日に受けることができるうえに、1年で修了可能な大学院もあります。

また、必要単位を修得したら2年未満(1年)で修了できるといった制度を取っている大学院もあります。

実施校例:桜美林大学大学院

学費や奨学金

大学院で勉強するためには、当然学費が必要です。

入学時に必要な学費は、国公立私立かによって大きく変わってきます。

入学金や授業料など、初年度に必要な費用はおおよそ以下のとおりです。

(※大学院・研究科によって異なりますので、必ず個々での確認が必要です。)

国立:80万円前後
公立:70~100万円程度
私立:80~180万円程度

もし、離職して通学するのであれば、学費以外に生活費まで含めた資金計画を立てておく必要があります。

奨学金など、さまざまな支援制度があるので、しっかりと調べてから行動に移すようにしましょう。

授業料減額や割引制度の利用
卒業生に対して割引制度を提供している大学院などもあります。

奨学金の利用
日本学生支援機構だけでなく、大学や地方公共団体が提供する奨学金などもあります。

単位制授業料の利用
社会人を対象に、長期在学できるよう授業料を単位数で支払うことができる大学院が増えています。

教育訓練給付制度の利用
失業中であれば、厚生労働省の教育訓練給付制度を受給できる場合があります。

参考:
厚生労働省 教育訓練給付制度
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/jinzaikaihatsu/kyouiku.html

自分の課題を解決できる研究室・研究者を探そう

大学院に進学しようと考える人の多くは、日本語教師としての課題を感じて、就学中にその課題を解決したいと考えています。

・分かったつもりになっていたが、実は基礎的なことが理解できていないので、同僚の日本語教師に対して上手に説明できない

現場で試行錯誤しながら得た知識や方法論を同僚の日本語教師に対して教えてあげたいが、果たしてそれが本当に正しいのか自信がない

非漢字圏の学生に漢字を教えることがどうしても上手くできず、その方法論を考えてみたい

大学院とは研究の場ですから、全般的な知識を得る以外に、個々で研究を行うテーマがそれぞれの大学や研究室によって異なっています。

自分が解決したいと考えている課題の専門家に師事する必要があります。

日本には、たくさんの日本語研究者がいます。

現在の住居や勤務先といった場所の制限などもありますが、可能な限りさまざまな研究室や研究者を調べて、悔いのない選択をしてください。

この記事ですべての研究室や研究者を紹介することはできませんが、次項から4名の方をご紹介します。

音声学

早稲田大学大学院 日本語教育研究科
戸田貴子教授

音声を媒材としたコミュニケーションにおいて、日本語の音声特徴が果たす役割についての研究を行われています。

聴取実験や音声解析を通じて、知覚と生成の両側面から、学習者による日本語音声・音韻の習得プロセスを分析し、さらに研究成果を日本語音声教育に応用して、効果的な発音指導の方法を研究されています。

また「日本語教育と音声」研究会を主催されています。

音声研究・音声教育の分野における最新の研究動向を学ぶことや意見交換の場を提供することを目的とした会です。

参考:
早稲田大学大学院日本語教育研究科 GSJAL日研 戸田貴子研究室
http://gsjal.jp/toda/index.html

日本語教育学・聴解

昭和女子大学大学院 文学研究科
横山紀子教授

第二言語習得研究

特にインプットが習得に果たす役割、理解過程(特に聴解)

日本語教育学

指導が第二言語としての日本語習得に果たす役割、教材設計、言語能力評価など

主な著書

『非母語話者日本語教師再教育における聴解指導に関する実証的研究』2008年

『聞くことを教える』(国際交流基金日本語教授法シリーズ5)2008年

『聴解能力育成において教室評価が果たすべき役割』2018年

参考:
昭和女子大学 教員紹介・研究業績 横山紀子
https://gyouseki.swu.ac.jp/swuhp/KgApp?kyoinId=ymkkgmgyggy

現代日本語の文法の文法

神戸学院大学 人文学部
野田春美教授

日本語を外国語として教えるために客観的な視点で捉えることを基本として、モダリティ表現、現代日本語の文法的バラエティ、否定表現などのテーマを中心に研究されています。

モダリティ表現とは、話者の捉え方または聞き手への伝え方を示すものです。

例えば「きっと雷がくるだろう」は話し手の憶測、「今日はいい天気ですね」は自分と相手の認識が同じであることを確認するモダリティ表現です。

主な著書

『グループワークで日本語表現力アップ』(共著)2016年

『現代日本語文法1 第1部 総論・第2部 形態論』(共著)2010年

主な研究テーマ

話し言葉における使用実態調査に基づく日本語の否定表現の使用傾向の研究(2018/4~2021/3)

バラエティを考慮した使用実態調査に基づく日本語のモダリティ記述発展のための研究(2013/4~2016/3)

第二言語習得研究

上智大学 言語教育研究センター
小柳かおる教授

言語学習のプロセスにおいて、学習者の認知面で何が起きているかを探る路線の第二言語習得研究を専門分野にされています。

研究対象は日本語の学習者で、第二言語習得研究の知見が、具体的に教育現場でどのように生かせるかということを研究されています。

主な著書

『認知的アプローチから見た第二言語習得:日本語の文法習得と教室指導の効果』(共著)2016年

主な研究テーマ

第二言語習得の個人差につながる言語適性(記憶と音韻処理能力)に関する基礎研究(2008/4~2012/3)

参考:
上智大学 言語教育研究センター 小柳かおる
https://rscdb.cc.sophia.ac.jp/Profiles/57/0005679/profile.html

まとめ

日本語学校などで働く日本語教師にとって、教育機関に在籍している日本語教育研究者とはどういった存在でしょうか

それを考えるにあたって、他の職種について考察したいと思います。

例えば、医者の世界には、臨床医と研究医が存在しており、研究医はさらに基礎研究医と臨床研究医の2つに分かれています。

臨床研究医は研究を行いながらも、現場の医師として患者の診察や治療も行います。

患者に接している中で、治療方法の改善や新しい治療方法のヒントを得て、自らの研究活動に活かしています。

であれば、臨床医でも研究を続けることができるのではないかとも考えられるのですが、現実にはそんなに簡単なことではありません。

研究には設備や師事する先生が必要ですので、研究に適した環境が必要なのです。

日本語教師の世界も、まさに同じです。

教育機関に在籍している日本語教育研究者は、医者の世界での基礎研究医のような立ち位置です。

教育の場で実際に生徒を相手にしているのではなく、日本語そのものについての研究を行っています。

日本語学習者を指導する自分たちとは別世界の方々であると思っていませんか?

しかし、日本語の世界にも、医者の世界でいう臨床研究医に当たる方々が存在しています。

実際に日本語教育の現場にも立ち続け、生徒に教えながら、自らの研究にも取り組んでいる日本語研究者です。

その方々は、教育現場で日々発生する問題点を感じながら、その問題を解決するための方法や理論を考え、研究成果として発表しています。

その研究の成果は、書籍などになって臨床医にあたる現場の日本語教師の手元に届きます。

そんな中、例えばあなたが「日本語教師として何か問題を感じたが、まだその解決方法については研究がなされていない」という状況になったとしたら、自らが研究を行い、日本語教育全体に貢献するような道を選択しても良いはずです。

日本語教育に携わるすべての方が、柔軟にキャリア構築を選択することができるようになるのが理想と言えます。

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