近年では、ネパール、フィリピン、ベトナムなど非漢字圏の日本語学習者が増加しており、漢字指導で苦労をされている先生もいらっしゃるかと思います。
今回の記事では、日本語教育における漢字指導について見ていきます。
日本語学習者と漢字
N1の漢字数は義務教育とほぼ同じ
日本語学習者がマスターしなければならない漢字について、JLPTを基準に見てみると、以下のようになっています。
N5・N4:300字
N3:600字
N2:1,000字
N1:2,000字
JLPTと日本の義務教育では、学習対象の漢字は同じではありませんが、比較対象として、日本の義務教育で学ぶ漢字の数を挙げると、以下のようになっています。
小学校6年間:1,026字
中学校3年間:1,110字
さらに、小学校の学年別の漢字配当を見てみると、それぞれで以下の文字数を学習することになっています。
1年生:80字
2年生:160字
3年生・4年生:約200字
5年生・6年生:約190字
漢字だけでなく、文法や語彙も含んだ時間となりますが、JLPTのレベル別の学習時間の目安は、以下のとおりです。
N5・N4:300~400時間
N3:450~600時間
N2:600~800時間
N1:900~1,200時間
あくまで目安ですので、日本語学校やオンラインレッスンなど、学習する場所のシラバスによって異なりますし、個人の学習スピードや仕事の都合によっても学習時間の前後はあると思います。
いずれにせよ、日本語学習者が覚えなければならない漢字は、日本の小中学生が学ぶ漢字と同じくらいあると言えます。
特に、N1を目指す場合は、約900~1,200時間の勉強時間の中で、日本人が9年間かけて学習する漢字と同数をマスターする必要があります。
日本語授業での漢字指導
『みんなの日本語』の副教材である『漢字練習帳』や『漢字たまご』など、漢字学習用の教科書を使って指導が行われます。
教育機関や教師により指導方法はさまざまですが、以下のような流れが一般的なやり方かと思います。
漢字の読みと意味・書き順を確認する
↓
その漢字を使った語彙や例文を派生的に覚える
その後に、練習や宿題として、その日勉強した漢字を使って実践問題に取り組んだり、短文作成や作文を行ったりします。
漢字への苦手意識をなくす3つのポイント
漢字の覚え方のコツ
漢字を初めて学習する方にとって、漢字は複雑な記号のように見えてしまいがちです。
しかし、漢字がパーツからなることを理解すると、漢字をパズルのように見ることができるようになります。
音声を表すパーツと意味を表すパーツからなる漢字(形成文字)は、その部首が持つ意味や読みを覚えるようにします。
例えば「青」を含む漢字であれば「晴・清・精・静」など、音読みはすべて「セイ」となります。
同じパーツを持つ漢字は、同じ読みを持つことが多いです。
また、以下のように、部首によってその漢字のおおまかな意味が分かります。
さんずい
水に関する漢字
てへん
手を使った人間の動作に関する漢字
やまいだれ
体調不良や病気に関する漢字 など
このような法則性を覚えると、その漢字を知らない場合でも、意味や読みを推測することができます。
漢字と漢字の組み合わせからなる漢字(会意文字)については、学習者にストーリーを作ってもらう練習が有効です。
動
重い荷物があります。
大きい力で押すと動きます。
鳴
鳥が口から音を出して、鳴きます。
『漢字たまご』には、パーツから漢字を作成する練習が豊富にあります。
本サイトの『漢字たまご』の解説記事も是非ご覧ください。
日常生活や日本語学習でのメリットを伝える
読み方・発音は同じでも意味が異なる言葉である「同音異義語」が、日本語にはたくさんあります。
例えば『みんなの日本語』には「あいます」という動詞が出てきますが、以下の3種類があります。
・友達に会います
・事故に遭います
・サイズが合います
また「とります」は「写真を撮ります」「休みを取ります」、「きます」は「学校へ来ます」「服を着ます」など、2種類の漢字を持つ動詞はもっとあります。
学習レベルが上がるにつれて、以下のように名詞にも多くの同音異義語が登場します。
「意外」と「以外」
「家庭」と「課程」など
漢字を覚えていないと、これらの言葉を見たり聞いたりしたときに、意味や使い方を思い浮かべることが難しいです。
より多くの漢字を覚えることで、日本語に多い同音異義語を理解・区別できるようになり、日本語でのコミュニケーションや学習の効率が上がることにつながります。
その実用性を理解してもらうことも、学習者の苦手意識を軽くするポイントと言えるのではないでしょうか。
メインテキストと連動させる
以下のように、漢字練習用の教科書をメインテキストに連動したものにすることも重要です。
『みんなの日本語』と『漢字練習帳』
『できる日本語』と『漢字たまご』
その日メインテキストで学習した語彙の漢字を扱うことで、語彙学習の一環として漢字を勉強することができます。
漢字圏と非漢字圏の学習者がいるクラスの場合、両者に生じる差を小さくすることにもつながります。
メインテキストで勉強した漢字を使って、類義語や反義語を覚えたり、作文をしたりするといった練習を行えば、漢字圏の学習者もそれほど優勢ではなくなりますし、漢字と語彙をセットで覚えることを促すことができます。
まとめ
今回は、日本語教育における漢字指導について見てきました。
学習者の苦手意識をなくすポイントは、以下の3点です。
・漢字をパーツに分解して認識する
・日常生活や日本語学習での実用性を感じてもらう
・メインテキストと連動させる
漢字指導について悩みや苦労を抱える先生方の参考になりましたら幸いです!