決まった解答がある練習問題とは違い、作文には決まった答えがないため、指導に苦労されている先生も多いのではないでしょうか。
今回の記事では、日本語教育における作文指導についてみていきます。
指導の3つのポイント
テーマの選び方
作文の目的は、以下の2つに大別されるかと思います。
①学習した文型・語彙のアウトプット
②自分の考えや意見をまとめる
初級レベルの場合
初級レベルでは、①が目的となる場合が多いです。
その日に学習した文型を実際に使ってみるための練習なので、以下のように、該当の文型を使って書けそうなテーマを設定します。
「~てしまいました」であれば
・失敗したこと
・最近残念だったこと など
「~たいです」であれば
・将来の夢
・夏休みの予定 など
新しく学んだ文型だけでなく既習のものも使うように促すと、より幅広い内容、長い文章を書くことができます。
なお「おすすめの本」や「アルバイトで嬉しかったこと」など、学習者全員に当てはまるわけではないテーマは避けるように気を付けます。
あまり読書をしない人やアルバイトをしていない人には、書きにくいテーマとなってしまいます。
中級レベルの場合
中級レベル以降の作文では、②が目的になると思います。
①とは反対に、学習者は必要な文型や語彙を自分で選択しながら、文章を書いていくことになります。
教師は、学習者やクラスの興味に合わせてテーマを決めることができます。
初級レベルでは個人的で具体的なテーマが多いですが、中級では、以下のような社会的・抽象的なテーマに挑戦できるといいと思います。
・自分の国の習慣やマナー
・SNSの問題点
・最近気になっているニュース など
ガイドラインを与える
いきなり「○○について××字で書きなさい」と作文のテーマを与えられても、学習者は戸惑ってしまうと思います。
そこで、作文を書く前に質問に答えたり、使用する文型を指定したりすることで、内容の構成を誘導するという方法があります。
例えば「私の趣味」というテーマで作文を書くとします。
その場合は、以下のような質問を1枚のシートにまとめたものを用意し、自分なりの答えを書いてもらいます。
そして、その答えをつなげて作文の形に仕上げてもらいます。
・あなたの趣味は何ですか?
・どうしてそれが好きになりましたか?(理由「~から」を使って書きます。)
・いつから始めましたか?
・クラスメイトや先生におすすめしたいですか?
プレタスクを行う
初級の場合は、上記の「趣味」のように身近で楽しいテーマが多いですが、前述のとおり、学習レベルが上がるにつれて社会的な問題や異文化理解など、抽象的で複雑なテーマについて書く機会も増えていきます。
学習者に知識がなければ、自分の考えを書くことが難しくなります。
そのときは、関連する資料や動画を見たり、事前に調べ学習を行うなど、作文を書くための材料を集める活動をします。
テーマから思いつく語彙を書き出す「マッピング」作業をするのもいいと思います。
それをペアやグループで見せながら話し合い、語彙の意味や必要な文型を確認することで、アイデアや文章構成を整理することができます。
添削の3つのポイント
作文の添削で大切なのは、学習者が伝えたいことを汲み取り、作文を書きたいという気持ちを高めることです。
赤ペンが何ヶ所も入った真っ赤な作文用紙を受け取ったら、学習者はどんな気持ちになるでしょうか?
間違いや不自然な点をすべて直すのではなく、内容に齟齬が生じてしまうような大きな間違いや、重要な文型のミスなど、その作文のコアとなる部分を中心に添削するのがいいでしょう。
具体的なチェックポイント
それでは、大切な箇所とは具体的にどのようなことを指すのでしょうか?
具体的なチェックポイントを5つ紹介します。
1. 全体の内容の分かりやすさ
以下を確認しましょう。
・学習者が一番伝えたいことが分かるか
・出来事が順番通りに説明されているか
・段落の分け方がきちんとできているか
内容が分からない箇所は、教師が一方的に内容を断定して訂正を書くのではなく、あえて保留にしておき、次の授業時に学習者に意図を尋ねるというのもひとつの手です。
2. 既習の文型や語彙の使い方
すでに習った内容が、間違って定着しないように気を付けます。
活用や接続を間違えている場合は、再度自分で復習してもらえるよう、文型の使い方や例文などヒントを書き入れます。
3. その日学習した文型・焦点となる文型の使い方
動詞の活用、接続、前件と後件のつながりなど、その日学習した新出の文型が正しく使われているかどうかを確認します。
4. 原稿用紙の使い方
原稿用紙には、独自のルールがたくさんあります。
以下のような基本的な使い方ができているかどうか、学習者が慣れるまでチェックするようにします。
・句読点が行頭にきてはいけない
・段落の最初は1マス下げる など
5. 文体の統一
普通体で書く常体、「です/ます」を使った敬体、どちらかに統一しなければなりません。
混在していないかどうかを確認します。
ペンの色や記号を決める
学習者に作文が返却されたときに視覚的に分かりやすいよう、教師側も添削ルールを決めるといいのではないでしょうか。
以下のように書き方を一定にします。
間違いの指摘:赤色のペン
解説やコメント:青色のペン
罫線:間違っている箇所
波線:よく書けている箇所
学習者同士のフィードバック
学習者同士でお互いの作文を交換し、感想を言ったり質問したりするというのも、教師からのフィードバックとはまた違う気づきを得られるきっかけになります。
他の学習者の文章を読むことで、表現や構成のアイデアを得ることができますし、他の人が読みやすい文章を意識することができます。
ペアでの確認が難しい場合は、複数人のグループで交換してもいいですし、選ばれた何人かの学習者がクラスで発表してもいいと思います。
まとめ
今回は、日本語の作文指導について見てきました。
完璧な文章を作り上げるというよりは、そのテーマの核となる箇所をチェックし、学習者の作文への意欲を高めることが大切です。
作文指導に困っている日本語教師の皆さんの参考になりましたら幸いです!