【教科書分析】「テーマ別 中級から学ぶ日本語」の3つの特徴とメリット・デメリット

みんなの日本語』2冊を終えた中級学習者向けの教科書として使用されることが多いのが『テーマ別 中級から学ぶ日本語』です。

今回は『テーマ別 中級から学ぶ日本語』の教科書分析をおこなっていきます。

目次

3つの特徴

1. 読み物をベースにした構成

1課から20課まで、テーマ別の読み物(本文)を軸に構成されています

本文の内容は、以下のようにさまざまです。

異文化理解
外国語学習、異なる文化との向き合い方など

日本文化
食事のあり方の変化、ことわざや比喩など

社会問題
現代社会の人間関係、異常気象、医療技術の進歩、貧困、少子高齢化など

本文の長さは500~900字以内に統一されており、初級を終えて中級へステップアップする学習者が、無理なく取り組める分量になっています。

参考:
日本語の凡人社 商品一覧『テーマ別 中級から学ぶ日本語 〈三訂版〉』
https://www.bonjinsha.com/goods/detail?id=11481&pt=4

2. 学習者の興味・関心に焦点

現在は三訂版が出版されています。

出版社である研究社のサイトには、以下のような説明があります。

20年以上にわたり好評を博してきた中級向け定番テキストが、三訂版で大きく生まれ変わります。”学習者の興味・関心に応えるようなテーマを設定し、教員と学習者がともに議論し、意見を述べ合い、その過程で日本語の総合力を伸ばす” という趣旨のもと、現在の日本語教育現場に適した教材として全面的に見直しを行いました。

三訂版では本文の内容を時代に即したものにするための見直しが行われており、計11課が完全に書き換えられ、計9課が本文を短くし、部分的に書き換えられています。

3. 議論や意見交換が可能

各課の構成は、以下のとおりです。

1. 新しい言葉
本文に出てくる新出語彙が記載されています。

2. いっしょに考えましょう
本文へのとっかかりとなるような質問が記載されています。

3. 読みましょう
本文が記載されています。

4. 答えましょう
本文の大まかな内容を把握するための質問があり、いわゆる「大意取り」のためのパートです。

5. 使いましょう
その課に出てくる文法項目を使って、実際に文章を作成する練習を行います。
前件や後件、文末がすでに決まっているので、学習者はその文脈に合うように、該当の文型を使用して文章の穴を埋めて完成させます。

6. まとめましょう
本文の要約を行います。
学習者の理解度や文章作成能力を測ることができるパートです。

7. 話しましょう
本文のテーマに沿って、自分の考えを他の学習者や教師と話し合うための課題が設定されています。

8. 漢字を練習しましょう
その課の重要漢字がまとめられています。ここは宿題になることも多いと思います。

議論や意見交換が可能な構成になっています。

メリット

導入のバリエーションが豊富

テーマに沿った構成になっているため、初級の授業に比べて、文型による縛りがありません

初級の導入では、会話や教室の中にあるものを使った例文を使用することが多いと思います。

中級では、雑談から入ってテーマを提示したり、クイズや歌、動画といった学習者が興味を示しそうな内容にしたりなど、教師の工夫次第で導入にバリエーションを持たせることができます。

 コミュニケーション・プレゼン練習ができる

課の後半にある「7. 話しましょう」では、自分の意見を相手に伝えるための練習を行います。

例えば、個人情報保護がテーマになっている課では、以下のような話し合いのためのトピックが用意されています。

・インターネットをどのように利用すればいいと思いますか?

自分の情報が他の人に知られたと思ったことがありますか

学習者は、根拠となるデータを示したほうがいいのか、自身の経験から話したほうがいいのかなど、トピックに合わせた効果的なプレゼン方法を考えなければなりません。

そのために必要な語彙や表現を自分で考えることも必要です。

デメリット

 精読の指導

初級の『みんなの日本語』やN5・N4の読解練習では、教科書や問題集の読解問題の設問に答えることができれば十分でした。

一方『テーマ別 中級から学ぶ日本語』では精読のための読解力を養成します。

精読とは、文章中の単語や文法を理解しながら、一文一文じっくり読んでいくことです。

そのため、教師は以下のような点に気を付けながら、授業準備を入念に行う必要があります。

・「1. 新しい言葉」の語彙は本文中のどこに出てくるのか

・「5. 使いましょう」の文型は本文中のどこに出てくるのか

・初級で導入していない語彙や文型があるかどうか

・初級で導入していない語彙や文型がある場合、どのように導入・説明すればよいか(どのような例文を提示するか、どんな場面を提示して使い方を理解してもらうか)

・既出の文型や語彙でも、学習者が忘れてしまっていた場合はどうするか

 文型練習のパートがシンプル

5. 使いましょう」では文型を使った練習を行いますが、文型説明がないので、教師が学習者にあった例文を考えて解説する必要があります。

どんなときにどう使うのかといった使用場面の提示と、文法的な接続の確認も行う必要があります。

練習問題はすべて文章の一部を考えて完成させるパターンなので、学習者のレベルに合わせて、他のパターンのオリジナル問題を作成したり、ワークブックを併用したりするなど、工夫が必要になります。

まとめ

今回は『テーマ別 中級から学ぶ日本語』について特徴やメリット、デメリットを考察しました。

読解の面で初級から大幅にステップアップする点と、文型練習の部分がシンプルな分、教師の入念な事前準備が必要な点に留意しなければなりません。

一方、学習者が自分の意見を発表できるパートがあるのは大きなメリットです。

この特性を活かせば、活発な授業ができるのではないでしょうか。

今回の記事が、みなさんが教科書を選定・分析する際の参考になれば幸いです。

  • URLをコピーしました!
目次
閉じる