導入とは、その日に学習する文型の意味と使用場面を理解させるためのステップです。
授業を行うためのシナリオとなる教案の中では、一番最初にくる項目です。
今回は、どんな導入方法があるのか、見ていきたいと思います。
視覚的に見せる
絵カードや写真は、導入においてかなり頻繁に使われるアイテムです。
特にどんな文型に有効なのか、見ていきましょう。
感情が関係する文型
「地震のニュースを見て、びっくりしました」「家族からメールがなくて、心配です」のように「て形」と感情を使用した文型があります。
この課では、以下のような感情を表す語彙が出てきます。
安心します、嬉しい、寂しい、恥ずかしい
それぞれがどのような気持ちなのか理解できないと、前件(文章の前半)との繋がりもピンと来ません。
そのため、感情を視覚的に見せ、学習者の理解につなげる必要があります。
また、以下のような文型も間接的に感情を表します。
~てくれます(みん日24課)
感謝、嬉しい
~てしまいました(みん日29課)
後悔、残念
~させられます(みん日48課、使役受身)
強制、不快
変化を表す文型
「~になります」(みん日19課)のように変化を示すものは、イラストや写真でビフォー・アフターを見せます。
例えば、温度が低くて寒そうな様子のイラストと、温度が上がってあたたかい様子のイラストを見せて「あたたかくなりました」という文章を板書します。
そこへ矢印の記号も足すと、さらに変化の意味が伝わりやすいのではないでしょうか。
時間が関係する文型
以下のような時間が関係する文型も、絵カードを複数枚用意して、時間の経過や行為の順番を示します。
~ています
みん日14課
~てから、~しました
みん日17課
~ています
みん日29課
「窓が閉まっています」のような自動詞
~てあります
みん日30課
「いすが置いてあります」のような他動詞
~たあとで、~ます
みん日34課
~るところです/~たばかりです
みん日46課
最初の「~ています」であれば、以下の3枚を用意します。
① 人物が食事を前にして「いただきます」と言っているカード
② 食事中のカード
③ 人物が空の食器の前で「ごちそうさまでした」と言っているカード
①は「食べます」、②は今回学習する「食べています」、③は「食べました」という状況を表しています。
「~ています」は、まさにその行為をしているときに使う表現だということが示せます。
既習文型との比較
例えば『みんなの日本語』7課で「N(名詞)をあげます/もらいます」という文型が出てきます。
そして、24課ではさらに発展して「て形+あげます/もらいます」という動詞の授受表現が出てきます。
その場合、7課の復習から入り、今回のように動詞の場合は「て形」を使うということを説明します。
既習文型との比較では、学習者に接続のルールや語彙の意味を質問しながら導入する方法が使えます。
教師が一方的に話すのではなく、学習者も体感しながら学ぶことで、知識のアウトプットができますし、印象にも残りやすくなります。
発言した人だけでなく、他の学習者にも考える機会が生まれます。
これは導入部分に限ったことではなく、授業自体を進めるうえで大切なことです。
学習者を巻き込んだ授業だと、予想通りの反応が返ってくるかが読めないため、教師にとっては少しハードルが高く緊張する方法かもしれません。
しかし、学習者主体の授業を作ることができ、教師自身も現場での臨機応変な対応を学ぶことができます。
学習者の発言やアウトプットの機械を最大限に増やすことはとても大切です。
会話・寸劇
「どうぞ~てください/~ましょうか」(みん日14課)、「~んです」(みん日26課)のように、会話の中で使用され、相手に対して提案・質問するような表現があります。
このような場合は、教師が1人2役をするか、ペープサート(紙人形)を使用して会話の例を見せます。
A:夏休みに京都旅行に行きました。
B:京都ですか。いいですね。
A:これはおみやげです。
B:ありがとうございます。
A:どうぞ食べてください。
学習者も参加できそうであれば、AさんかBさんどちらかの役を学習者にやってもらうことも可能です。
学習者に未習表現を言わせるのは好ましくないという方針もあると思いますので、その場合は、既習表現のほうの人物(上記の例ではBさん)をやってもらったり、教師が小声でセリフをサポートしたりします。
レアリアの活用
「~と、~ます」(みん日23課)や「~によると、~そうです」(みん日47課)など、実生活に即した表現はレアリアの活用が有効です。
レアリアとは、教育のために作られた教材ではなく、身の回りのもののことで「生教材」「実物教材」とも言われます。
以下のように、例を挙げるときりがないほど豊富です。
食品・新聞・飲食店のメニュー・携帯電話やパソコンなどのデバイス・文房具 など
「~と、~ます」であれば、授業で使用するパソコンを使って「ここを押します。音が大きくなります。ここを押すと、音が大きくなります」のように機械操作の場面を提示します。
「~によると、~そうです」であれば、天気予報のサイトを見せて「今日の天気です。雨です。天気予報によると、今日は雨がふるそうです」のように、情報源とそこから得られる情報を示します。
テーマの提示
『みんなの日本語』をはじめとした教科書は、易しい文法から難しい文法へと積み上げるタイプの授業です。
それに対して、以下のように特定のテーマや場面を設定して、その中で必要な文型や語彙を教える授業もあると思います。
・自己紹介をする
・スーパーで買い物する
・病院で診察を受ける
・友達を映画に誘う
生活者のための日本語やビジネス日本語では、この手法が取られることが多いです。
ビジネスの場合は、以下のような場面設定になります。
・会議の日時を決める
・電話を受ける
・値段を交渉する
・クライアントと会食する
このタイプの授業では、最初に「今日は〇〇のときに使う日本語を勉強します」と簡単にテーマを言うことで導入とすることがあります。
まとめ
今回は、主な導入の方法について見てきました。
文型ごとによく使われる定番の方法はありますが、決まったやり方があるわけではありません。
学習者のレベルや興味に合わせたり、教師の特性を活かしたりして、学習者に身近な場面を提示できるのが理想だと思います。
今回の記事がその一助になりましたら幸いです。