【教科書分析】「みんなの日本語」の3つの特徴とメリット・デメリット

日本語教育において一番メジャーな教科書で、日本語教師を目指したり、日本語教師として働いている方のほとんどが持っている教科書が表題の『みんなの日本語』かと思います。

初版は1998年ですので、20年以上にわたって国内外で使用されてきたテキストです。

今回は、そんな『みんなの日本語』について分析していきます。

目次

3つの特徴

段階的な学習が可能

1課から50課にかけて、易しい文型から難しい文型へ積み上げていく学習方式を取っているため、ゼロレベルや初級の学習者が、必要な文型を網羅して段階的に学習することができます。

1課の中の構成も、以下のような流れで、無理なくステップアップして学習することができます。

語彙を予習

練習Aで文型の導入

練習Bで練習問題を解く

練習Cで日常的に使える会話表現を学ぶ

多言語に翻訳されている

みんなの日本語』の出版社であるスリーエーネットワークのサイトによると、翻訳・文法解説は、『初級Ⅰ』13ヶ国語、『初級Ⅱ』12ヶ国語で、現在刊行されているそうです。

国際交流基金の報告にも、以下のように多くの国で『みんなの日本語』が使用されている、または使用率が高いとの記述がありました。

台湾・中国・モンゴル・インドネシア・フィリピン・ブラジル・オランダ・エジプトなど

海外で教える場合や、学習者に効率よく語彙を暗記してほしい場合に、学習者の母語の教科書を使用するという選択肢があります。

参考:
スリーエーネットワーク ウェブサイト
https://www.3anet.co.jp/

シリーズの副教材が豊富

みんなの日本語 初級Ⅰ・Ⅱ』には、本冊(メインテキスト)以外にも豊富な副教材があります。

うまく組み合わせることで、学習者の4技能(読む・書く・話す・聞く)および漢字を伸ばすことができます。

ちなみに、CDプレーヤーを持っていない、パソコンにCDドライブが付いていない方は、本冊の付属CDの音声をスリーエーネットワークのサイトから無料でダウンロードすることができます。

参考:
初級Ⅰ
https://www.3anet.co.jp/np/resrcs/230020/

初級Ⅱ
https://www.3anet.co.jp/np/resrcs/240020/

メリット

授業の引継ぎがスムーズ

2018年の「日本語学校全調査」によると、74.1%(338校)の告示校が『みんなの日本語』を使用しているとの回答があったそうです。

当時稼働していた492校の9割から回答があったため、かなり正確なシェアだと考えられます。

日本語教育の現場は、コマごとに担当教師が変わるため引継ぎが必要であったり、勤務している教師の入れ替わりが激しかったりします。

スタンダードである『みんなの日本語』を使用することで、コマの繋ぎや教師同士の引継ぎがスムーズになります。

養成講座も『みんなの日本語』を使用する前提で指導が行われているため、新人教師が養成講座とのギャップを感じずに現場に合流するためにも『みんなの日本語』を使用する学校が多いと考えられます。

課ごとに文型が分かりやすく整理されており、文型の難易度も、易しいものから難しいものへいく構造シラバスであるため、学生の復習にも便利です。

以下のような場合にも、どの課から始めればいいかが一目瞭然です。

・実力テストでクラス分けをしたとき
・学習者の苦手分野を補習するとき

副教材で幅広い分野をカバーできる

「特徴」の項で副教材の多さに触れましたが『みんなの日本語』は、わざわざ別の教科書を使用しなくても、シリーズの教材でかなりの分野を網羅することができます

初級で読めるトピック』で読解力、『やさしい作文』で文章力、『聴解タスク25』で聴解力を鍛えることができますし、漢字練習帳で漢字の練習も可能です。

例えば、聴解の副教材がない教科書をメインテキストとして使用し、他の出版社の聴解テキストを導入したとします。

その場合、聴解問題に出てくる語彙や文型がメインテキストで既習かどうか、一覧表や語彙表を作成したり、照らし合わせ作業を行ったりして、確認する必要があります。

また、漢字の副教材がないメインテキストであれば、試験を作成する際に、どの語彙であれば漢字で表記してよいのか、漢字の問題にどんな語彙を使えばいいのか、こちらも確認作業が必要になります。

それに対して『みんなの日本語』は、シリーズの中でかなりの練習をまかなうことができます。

デメリット

教師側の準備時間や知識が試される

文型解説や練習問題の指示がないシンプルな作りであるため、教科書分析事前準備にかけなければならない時間が多くなります。

うまく授業を組み立てられるかどうかが、教師の知識や工夫にかかってくる部分が大きいです。

各課の練習AとBは文型ごとに対応しているわけですが、必ずしも同じ番号同士で対応しているとは限りません。

例えば「て形」が出てくる14課ですが、練習A-1は「ます形」から「て形」への変換ルール、練習A-2は「て形+ください」の依頼の文型という構成です。

練習Bに練習A-1に対応する問題はなく、練習B-1~3は練習A-2に対応した問題となっています。

そのため「ます形」から「て形」への変換を定着させるためには、練習Bは使えませんので『みんなの日本語』の副教材(詳細は後述)を使用したり、教師がオリジナルで動詞のフラッシュカードや変換練習表を用意したりする必要があります。

また、練習Aにはどの課も5個前後の文型が載っていますが、これは文型によっては同時に導入したほうがいい場合があります。

15課は、練習A-3に「わたしは京都に住んでいます」、A-4に「わたしは会社で英語を教えています」という例文が載っています。

教師側の文法用語だと、前者は「結果の状態」、後者は「習慣的行為・職業」のように分類することができますが、学習者には専門用語を使って説明しませんので、授業では練習A-3と4を一緒に、家族や仕事について紹介するための文型として扱います。

練習問題の指示やイラストの確認が必要

練習Bに関しても、例題と練習問題だけのシンプルな構成です。

「絵を見て文章を完成させなさい」「例のように、動詞を正しい形に変えなさい」のような問題文がないため、事前に問題の形式や意図を確認しておいたほうがいいでしょう。

また、使用されているイラストの場面設定も確認したほうがいいと思います。

私たち日本人にとってはお馴染みの問題形式でも、馴染みのない学習者もいるはずですので、学習者が問題形式を理解して慣れるように説明する必要があります。

まとめ

今回は『みんなの日本語』について、特徴やメリット・デメリットを考察しました。

構成がシンプルで分かりやすい分、教師の知識や工夫で、授業の構成や内容を補わなければならない教科書だといえます。

ちなみに、筆者が養成講座で注意されたのは『みんなの日本語』には関西の地名や場所が多いので、学習者の出身地や学校のロケーションに合わせて変えたほうがいいということでした。

地名や場所に限らず、学習者の興味や時代の変化に合わせて、例文の語彙にも気を付けたいものです。

例えば、現在では「喫茶店」より「カフェ」、「ケータイ」より「スマホ」のほうが使用頻度が高くなっていたり、デジタル化によって「手帳」や「カタログ」などもあまり馴染みがなくなってきたりしていると感じます。

今回の記事が、みなさんが教科書を選定・分析する際の参考になれば幸いです。

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